がん患者さんにとって「プレハビリテーション」のメリットには色々とありますが、最大のものは「手術後の合併症のリスクを減らせる」ことです。
つまり、プレハビリテーションによって「手術によってもたらされる好ましくない状態」を未然に防ぐことができるということです。
今回は、プレハビリテーションと術後合併症について、詳しく解説します。
プレハビリテーションによって手術の合併症が減る
がん患者さんがプレハビリテーションをすることで、術後の合併症が減るという研究結果が多数報告されています。
合併症とは、「手術によってもたらされる好ましくない状態」のことで、たとえば、肺炎であったり、腸を縫合したところがうまくつながらずに内容物が漏れたり、あるいは創部(手術のきず口)が細菌によって化膿するといったことです。
たとえば、お腹の手術を受けた患者を対象とした9つの研究(計435人)をまとめた総合的な解析では、有酸素運動、レジスタンス運動(筋トレ)、および呼吸筋のトレーニングからなるプレハビリテーションを実施することで、すべての術後合併症がおよそ40%減ることが示されました。
なかでも、肺炎など呼吸器関連の合併症は70%以上も減少したということです。
高齢の患者さんや、もともとの健康状態があまり良くない患者さんに、ひとたび肺炎など重症の合併症が起こると、それがきっかけで死亡につながることすらあります。
したがって、合併症を未然に防ぐためのプレハビリテーションは、患者さんの命を救う重要なプログラムであるといえます。
プレハビリテーションによって入院期間も短縮
プレハビリテーションによって術後の合併症が減り、回復が早まる結果、入院期間が短くなるというメリットもあります。
実際に、大腸がん手術をうける患者を対象とした9つの研究をまとめた報告によると、プレハビリテーションによって入院期間が2日間短縮されていたとのことです。
術前の運動に関する17の研究を総合的に解析した結果では、肺がん患者において、術前の運動は術後合併症をおよそ50%減らし、入院期間を3日程度短縮させることが示されています。
昨今、医療費の高騰が社会問題となっていますが、合併症が減ったり、入院期間が短くなったりすることは、医療コストの削減にもつながります。すなわち、プレハビリテーションは医療経済的にも有意義なプログラムといえます。
こういった観点からも、がんの手術を控える患者さん全員にプレハビリテーションをおすすめしたいと考えています。
ひとつ代表的な研究を紹介します。
Impact of one-week preoperative physical training on clinical outcomes of surgical lung cancer patients with limited lung function: a randomized trial. Ann Transl Med. 2019 Oct;7(20):544. doi: 10.21037/atm.2019.09.151.
呼吸機能に障害がある肺がん患者を、有酸素運動と呼吸筋のトレーニングを組み合わせたプレハビリテーションを術前に1週間だけ行うグループと、行わないグループに分けて比較した研究です。
プレハビリテーションを行ったグループでは術後の呼吸関連の合併症が11.8%であり、プレハビリテーションなしのグループの35.3%と比べるとおよそ3分の1まで低下していました。
また、プレハビリテーションを行ったグループの入院日数は、プレハビリテーションなしのグループに比べて平均で3日間短くなっており、かかった医療費(医療コスト)も少なかったという結果でした。
まとめ
がん患者さんが(たとえ短期間でも)プレハビリテーションを実践することで、術後の合併症のリスクを減らすことができ、入院日数の短縮や医療費の削減につながる可能性があります。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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