がん手術 がん手術前の準備プレハビリテーション 運動・筋トレ

がん手術前の運動:有酸素運動と筋トレをしましょう!

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プレハビリテーション(がん手術前の準備)のもっとも基本となるメニューは、運動です。

プレハビリテーションの3つの柱

  • 運動
  • 栄養サポート
  • 精神的ケア

手術は患者さんにとって負担となり、しばらくは身体機能が落ちます。

体力(とくに筋力)が落ちている患者さんがそのまま手術を受けると、術後の合併症が増えることがわかっています。

また、大きな手術をうけた患者さんのうち、40%~50%は術後6ヶ月たった時点でも身体機能や筋力が低下したままだといわれています。

運動を中心としたプレハビリテーションは、術前から体力(持久力と筋力)をアップしておくことで、手術の合併症を減らし、術後も早くもとどおり動けるようになることを目的としています

なぜがんの術前に運動が必要なのか?

手術(および麻酔)によるストレスは、少なからず体のバランスを維持するシステム(ホメオスタシス)に変化をきたし、ダメージを与えます。これを、手術侵襲(しんしゅう)と呼びます。

手術の直後から数日間はエネルギー消費量(基礎代謝率)が増加し、飢餓状態のときのように糖新生(糖質以外の物質からグルコースを生産する経路)が亢進します。

このとき、体内で必要なエネルギー(糖分)をつくるために、筋肉(とくに体を支え、運動に欠かせない骨格筋)のタンパク質が分解されるのです。

つまり、筋肉(骨格筋)は体を動かすことの他に、エネルギーを蓄える重要な貯蔵庫でもあるのです。

手術のときに筋肉が減っていて十分なタンパク質のストックがない場合、手術の直後から体内のタンパク質(アミノ酸)が急激に減っていきます。

その結果、本来からだが持っている「キズを治す力(創傷治癒力)」や「細菌などの感染から体を守る力(免疫機能)」が失われてしまい、手術でつないだところが漏れたり、色々なところが感染したりといった合併症のリスクが増えていきます。

さらに、手術侵襲によって筋肉が分解されるだけではなく、自律神経(交感神経と副交感神経)やホルモンのバランスが乱れ、また炎症によって体に悪影響をおよぼす物質(炎症性サイトカイン)が血液中に放出されます。

手術の種類(切除する範囲など)によっては、手術侵襲によって術後3日~1週間くらいは軽いショック状態となります。

極端な例ではありますが、大きな手術の後には「フルマラソンを完走した後」のような憔悴しきった状態におちいることもあるのです。

手術前のがん患者さんも、マラソンの準備と同様、心肺機能および筋肉量を増加させるトレーニングの必要があるのです。

運動を中心としたプレハビリテーションによって術前から体力(身体機能)アップ

実際に、運動を中心としたプレハビリテーションによって身体機能(持久力や筋力)が改善し、術後の回復がうながされることが示されています。

たとえば、手術を予定した食道がん患者さんを、手術前にプレハビリテーション(運動+栄養サポート)を受けるグループと受けないグループとに分け、手術の前後で「6分間歩行テスト」によって身体機能(持久力)がどう変化するか比較しました。

その結果、プレハビリテーションを受けたグループ(26人)は、受けていないグループ(25人)と比べ、手術前および手術後の持久力(歩けた距離)があきらかに改善していました(下図)。

このように、プレハビリテーションによって、術前から体力をアップしておくことで、術後の回復(ひいては社会復帰)を早めることができるのです。

手術前にはどんな運動をすべきか?

手術を控えたがん患者さんには、どのような運動がどの程度必要なのでしょうか?

まず運動の種類としては、有酸素運動レジスタンス運動(いわゆる筋力トレーニング)の両方が必要です。

っさいに、過去に報告されている多くのプレハビリテーションの運動メニューとして、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせたプログラムが採用されています。

理想的には、有酸素運動(30分以上)を毎日、レジスタンス運動(20~30分)を週に2~3日行うのがよいでしょう。

有酸素運動

有酸素運動では、ウォーキング、ジョギング、サイクリング(エアロバイク)、エアロビクス、スイミング、水中エアロビクス(アクアビクス)などから、無理なく続けられるものを選びましょう。

手軽にはじめられるものとしては、ウォーキングがよいでしょう。

ウォーキングの場合、もちろん自分のペースで歩いてもらっていいのですが、できれば少し息がはずむ程度の「早歩き」を目指しましょう。

可能であれば心拍数を測定し、最大心拍数の60~70%を目標にします(運動の習慣がなく、少しの運動で息があがる人の場合は、40~50%程度)。

最大心拍数とは、220から年齢を引いた数で、年齢とともに少なくなります。たとえば60歳の人であれば最大心拍数は220-60=160です。

慣れてきたら、信州大学医学部特任教授の能勢博氏が推奨している「インターバル速歩」を取り入れてもよいと思います。

レジスタンス運動(筋トレ)

レジスタンス運動とは、筋肉に負荷をかける運動のことで、いわゆる「筋力トレーニング(筋トレ)」です。

スポーツジムでトレーナーの指導のもと、マシンを使ったプログラムを行うのがベストですが、自分の体重を負荷として使ったレジスタンス運動(自重トレーニング)であれば、自宅や散歩中の公園などでもできます。

おすすめのレジスタンス運動をあげておきますので、これらのうちから自分に合ったものを組み合わせてください。

  • ダンベル運動
  • 腕立てふせ
  • 体幹運動(フロントブリッジ)
  • スクワット
  • かかと上げ運動(かかと落とし)

がん患者が運動をする場合の注意点

がん患者さんが運動をする場合の注意点を挙げておきます。

1.主治医に相談し、無理のない範囲で運動する

がんの種類や治療(手術前の抗がん剤や放射線治療)によっては、運動を控えたほうがよい場合もあります。主治医に確認し、無理のない範囲で運動しましょう。

貧血がひどい場合や、心臓や肺が悪い人では運動がすすめられないこともあります。

2.前後にストレッチをしましょう

いきなり運動するのは避けて、前後に十分にストレッチをしましょう。

またレジスタンス運動では、関節や骨に負担がかかりすぎないように、マシンの負荷(おもり)を上げすぎないようにしましょう。

3.疲れている場合には休む

疲れている時や、運動を始めてきついと感じるときには無理をせずに休みましょう。

翌日にあらためて運動を再開してください。

がんの手術前にはできる範囲で運動し、持久力と筋力アップを目標にしましょう。

まとめ

がん手術前にはプレハビリテーションの基本メニューである運動をしましょう。

有酸素運動(30分以上)を毎日、レジスタンス運動(20~30分)を週に2~3日行うのがよいでしょう。

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外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。
  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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