プレハビリテーション総論

どんな「がん患者」にプレハビリテーションが必要か?

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手術前からのリハビリである「プレハビリテーション」は、どんな人に必要なのでしょうか?

がんの手術を受ける患者さんの背景(年齢や体力、栄養状態、がんの部位や進行度など)は一人一人まったく違います。

このため、「プレハビリテーションが必要かどうか?」、あるいは、「どの程度のプレハビリテーションが必要か?」は、患者さんによって異なります。

今回は、「どんながん患者さんにプレハビリテーションが必要か」について解説します。

どんながん患者にプレハビリテーションが必要か?

基本的には、すべての手術を控えたがん患者さんに役立つことは間違いありません。

ただ、以下の項目に当てはまる人は、よりプレハビリテーションの必要性が高くなります。

プレハビリテーションの必要性が高い人

  • 活動性が低い(日常生活に制限がある)人
  • 高齢の人(75歳以上)
  • 治療中の持病(例、糖尿病、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といった呼吸器の病気など)がある人
  • たばこを吸っている人(あるいは咳や痰が多い人)
  • 食欲がなく(あるいは食事があまり摂れずに)、体重が減っている人
  • 筋肉がおちて手足が細くなってきた人
  • 手術前に抗がん剤や放射線治療を受ける人

これらの項目にひとつでも当てはまる人は、しっかりとしたプレハビリテーションが必要だと考えられます。

逆に言うと、これらの人こそプレハビリテーションの恩恵にあずかることができると考えられます。

とくに、最初の項目である「活動性」はとても重要な判断材料となります。

活動性が低い人ほど、合併症のリスクが高まる

手術がうまくいくか(あるいは麻酔が安全にかけられるかどうか)を決定する重要な因子は、全身の状態、つまり、日常生活での活動性です。

あたりまえのように感じるかもしれませんが、全身状態が良好で、ふだん活発に動ける人ほど手術を安全に行うことができ、合併症のリスクは低くなります。

一方で、全身状態が悪く、日常生活に制限がある人ほど麻酔や手術にともなう危険が高くなり、合併症も増えるのです。

極端な例をあげると、寝たきりの患者さんは手術や麻酔のリスクが非常に高くなるわけです。

例えば、膵頭十二指腸切除を受けた17,564人の患者について日本の大規模なデータベースを使って解析した研究によると、日常生活において自分の身のまわりのことができない(部分的または完全に依存している)患者では、重症の合併症がおこるリスクがおよそ2倍になっていました。

このように、活動性の低い人ほど術後の合併症が増えるため、プレハビリテーションの必要性がより高いと考えられます

日常の活動性をあらわすパフォーマンス・ステータス(PS)

一般的に医療現場では、がん患者さんの活動性(日常生活においてどのくらいの制限があるか)を評価する指標として、アメリカの団体ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)が提唱したパフォーマンス・ステータス(Performance Status:PS)が使われています。

パフォーマンス・ステータスでは、患者の全身状態を日常生活動作のレベルに応じて0~4の5段階であらわし、「PS(ピーエス)0」などと呼びます。

パフォーマンス・ステータス(PS)

: まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。

: 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業

: 歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。

: 限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。

: まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。

大多数の人はPS0またはPS1だと思いますが、なかには、持病やがんの症状によってPS2やPS3になっている人がいるかもしれません。

とくに、高齢の患者さんは、もともと活動性が低下しているところにがんによって全身状態がさらに悪化し、PSが高い人が多くなってきます。

われわれ外科医としても、PSが高いがん患者さんにとって手術が適当かどうかの判断はとても慎重になります。

なぜならば、PSが高い(一般的には2以上)がん患者さんほど、術後の合併症が増え、生存期間が短くなることが多くの研究から明らかとなっているからです。

ときには、リスクが高すぎて手術や麻酔ができない(あるいは手術しない方が長生きできる)場合もあるのです。

したがって、手術を受ける予定のがん患者さんのなかでも、PSが高い人ほどしっかりとしたプレハビリテーションが必要であると考えられます

実際に、私が担当したがん患者さんのなかでも、活動性が低下している人には、少し手術日を遅らせてでも手術にむけて準備してもらうようにしています。

日中の半分以上の時間をベッドか椅子で過ごすほど活動性が低下した患者さん(PS3)でも、プレハビリテーションによって全身状態が改善し、手術の直前にはしっかりと歩けるようになります。

その結果、術後の合併症なく退院していきます。

まとめ

基本的には、すべてのがん患者にプレハビリテーションをおすすめしますが、活動性の低い人ほど術後の合併症が増えるため、プレハビリテーションの必要性がより高いと考えられます。

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医+がん研究者。 産業医科大学第1外科講師。専門は「すい臓がん」。エビデンスと経験に基づいた「患者さんファーストのがん治療」が目標です。ブログ、ツイッター、YouTubeなどでがん患者さんに役立つ情報発信しています!

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