最新の研究からわかった「がん転移」についての驚くべき新事実を3つ紹介します。
1.がん内部の細菌が転移を促進
2.リンパ節転移が全身転移を加速
3.がん転移は眠っている間にすすむ
はじめに
がんの転移とは、最初にがんができた部位からがん細胞が離れて、リンパ節や遠くの臓器へ到達して増えることをいいます。
がんの転移を防いだり、転移のメカニズムを説き明かして治療の方法を開発することは、がんの治療において最大の課題といえます。
最近、がんの転移についての研究がすすんでおり、まったく新しい知見が次々と報告されています。
今回は、がん転移について、驚くべき新事実を3つ紹介します。
1.がん内部の細菌が転移を促進
2.リンパ節転移が全身転移を加速
3.がん転移は眠っている間にすすむ
1.がん内部の細菌が転移を促進
これは、以前の動画でもお伝えしたように、細菌とがんの転移との関係についてのおどろくべき研究結果です。
まず、がんの組織を調べると、がんの種類によって違いますが、10~70%の症例で、がん組織から色々な種類の細菌が検出されることがわかりました。とくに、乳がんや膵がんで、細菌が発見される割合が高いということです。
この、がんの内部の細菌はいったい何をしているのか?ということですが、これを調べたのが、2022年の4月に Cell という雑誌に報告された論文です。
この研究では、がん細胞内に細菌が侵入すると、転移しやすくなるというメカニズムを発見しました。
では、がん細胞の内部に細菌が侵入すると、どうなるのでしょうか?
がんが転移をする最初のステップは、がん細胞が血管のなかに入り込むことです。
この時、機械的な圧によって、がん細胞はつぶれて死んでしまうということなんですが、細菌が侵入したがん細胞は、骨格が強くなって、血管内でもつぶれずに生き残って、遠くの臓器へたどり着くチャンスが増えるということです。
ですから、がん内部の細菌は、ただの居候ではなく、がんの転移を手助けする役割をはたしていることがわかりました。
今後、細菌をターゲットにした転移を防ぐ治療法が開発されることを希望したいですね。
2.リンパ節転移が全身転移を促進
がんの転移の順番として、まず、リンパ節へ転移して、その後、他の臓器への転移(いわゆる遠隔転移)がおこることが、経験的にわかっていたのですが、リンパ節転移と遠隔転移との関係についてはくわしく解明されていませんでした。
今回、がんのリンパ節転移が全身への転移を加速しているという研究結果がでたので紹介します。
2022年の5月にCellという雑誌に報告された論文です。
この研究では、マウスの皮膚がんのモデルをつかって、どうやって、リンパ節転移から全身の臓器への転移へ進むのかについて、くわしく調べています。
ちょっと難しいので、要点だけお伝えすると、まず、がんがリンパ節に転移すると、そのリンパ節で免疫細胞とのやりとりが行われて、がんに対する免疫システムの変化が起こることがわかりました。
この免疫の変化は、「免疫寛容」といって、「免疫」ががん細胞を攻撃しないようにする変化です。
これによって、がんは、さらに、遠くの臓器へ転移しやすくなる、ということです。
ですので、わかりやすく言うと、がんは、まず免疫細胞の基地となるリンパ節へ侵入して、そこで、免疫細胞(兵隊)をてなずけて、自分を攻撃しないように洗脳すると考えられます。
こうして、がんは、全身で免疫細胞からの攻撃から逃れることができて、次々に臓器へ転移することができるようになるわけです。
というわけで、がんのリンパ節転移は、免疫の変化をもたらして、全身への転移を促進するという研究結果でした。
ですから、リンパ節転移と遠隔転移には、深い関係があるということです。
3.がん転移は眠っている間にすすむ
これもちょっと驚きの研究結果ですが、がんの転移は夜眠っている間に加速されるということが報告されました。
今年の6月にNatureという雑誌に報告された論文です。
タイトルは、「乳がんの転移は眠っているあいだに加速する」というものです。
がんが転移する最初のステップは、がん細胞が血管内に侵入して、血液の中を流れていくことですが、これは、以前は、24時間、同じペースでおこっていると考えられていました。
ところが、それは、違っていました。
この研究では、まず、乳がんの患者さんの血液サンプルを使っての実験で、血液中を循環するがん細胞(CTC)が、昼よりも夜寝ている間に増加することを発見しました。
たとえば、入院中の乳がん患者さんから早朝の午前4時と、午前10時に採血をして、このCTCを調べたところ、検出されたCTCのうち大部分(78%)は、午前4時に採取した血液から得られたということです。
つまり、寝ている間に、がんの転移をおこす細胞が増えているということです。
マウスは、人とちがって、夜間にもっとも活動的になって、日中に休息しますが、マウスに乳がんを移植したモデルで、経時的にCTCを測定したところ、やはり、日中の休息期に最も増えていたということです。
さらに興味深いのは、別の実験で、活動期のCTCと休息期のCTCを取りだして、蛍光色の目印をつけて、(もちろん同じ細胞量を)ふたたび別のマウスに移植したところ、活動期のCTCよりも、休息期のCTCのほうが、たくさん転移して腫瘍を作ったということです。
つまり、眠っている間のCTCのほうが、数が増えるばかりでなく、転移する能力も高いことがわかりました。
以上の結果から、乳がんにおいては、夜間休んでいる間に転移しやすくなる、という結論です。
この原因ははっきりしていませんが、体内時計(サーカディアンリズム)を司るホルモン(メラトニン、テストステロン、あるいはグルココルチコイド)がCTCのふるまいを変化させているようです。
ただし、この結果から、決して「がん患者は夜寝ないほうがいい」ということではありません。むしろ、睡眠不足や睡眠障害は、がんの進行を促進して生存率が低下することが報告されています。
この結果を受けて、今後、治療に応用すること、例えば、持続注入ポンプなどをつかって、夜間(寝ているあいだ)に抗がん剤の量を増やして、血液中に増えた循環するがん細胞を効率よく攻撃する、そういった新たな治療戦略が考えられています。
まとめ
今回は、最新の研究からわかったがん転移の新事実3つ
1.がん内部の細菌が転移を促進
2.リンパ節転移が全身転移を促進
3.がん転移は眠っている間に加速
でした。
こういった新しい知見が、がん治療の進歩につながることを期待したいと思います。
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