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血中ビタミンD濃度が低いがん患者は短命に(生存期間が短くなる)?

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栄養素のなかでもビタミンDは、細胞の増殖、免疫の調節、炎症のコントロールなど重要な役割をはたしています。このビタミンDが欠乏し、血中濃度が低いがん患者は生存期間が短くなるという研究結果があります。

はじめに

ビタミンDは色々な機能をもつ脂溶性ビタミンで、骨の正常な成長を促す以外にも、細胞の分裂や増殖のコントロール、免疫機能の調節、炎症の抑制効果など、様々な役割を果たしています。

ですので、単に「ビタミンの一種」というだけでなく、健康を維持するために必須の栄養素で、感染やがんなど病気の予防として重要です。

実際に、ビタミンDが不足すると、がんになるリスクが増えることや、がんが進行しやすくなって死亡リスクが高くなることが、多くの研究から明らかになっています。

したがって血中のビタミンDを測ると、がん患者さんの生存期間が予測できるといわれています。

今回は、大規模な観察研究において、血中ビタミンD濃度が低いがん患者は生存率が低下するという報告がありましたので、紹介します。

血中ビタミンD濃度が低いがん患者は生存率が低下

2017年に、JAMA Oncology という雑誌に報告された論文です。

パスウェイスタディ(Pathway Study)という、アメリカの乳がん患者さんが参加している大規模な前向きコホート研究です。

全部で4505人の乳がん患者さんについて、がんの診断時にビタミンDのマーカーである血清25-hydroxyvitamin Dを測定し、その後8年間にわたって予後(がんの再発やがんによる死亡など)や健康状態について追跡調査しました。

そして、血中のビタミンD濃度と乳がんの生存率との関係を調べました。

その結果、がん診断時の血中ビタミンD濃度は、進行がんの患者さんで低く、がんのタイプ別ではトリプルネガティブ乳がんで最も低かったということです

さらに、血中ビタミンDが最も低いグループでは、最も高いグループと比べて、全生存期間が短くなっていました。

他の因子で調節した解析においても死亡リスクが28%も高くなっていました

これらの結果より、血中ビタミンD濃度の低下は、乳がんの進行度や死亡率の上昇と関係していることが示されました。

こういったビタミンDと生存率との関係は、乳がんに限らず、他の種類のがんでも報告されています。

他のがんにおける研究結果

例えば、最近報告された大腸がん患者さんを対象とした研究を紹介します。

約400人の大腸がん患者さんを対象として、手術前の血中のビタミンDの濃度と手術後の合併症や生存期間との関係を調べました。

手術前に血中のビタミンD濃度がもっと低かったグループ(25 nmol/L未満)では死亡リスクが急速に増加しており、生存期間が最も短くなっていました。

さらに、高齢の患者さんにおける解析では、ビタミンD濃度が最も高いグループでは、最も低いグループに比べて、手術後の重症の合併症のリスクが48%も減っていました。

以上の結果より、がんの診断時に血中のビタミンDが低い大腸がん患者さんでは、手術後の合併症のリスクが高くなり、生存期間が短くなる可能性があるという結論です。

ビタミンDが不足しないようにするためには?

では、ビタミンDが不足しないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか?

ビタミンDを含む食品は少ないのですが、脂ののった魚(サケ、マグロ、サバなど)の身や魚の肝油が最もビタミンDを多く含みます

また牛レバー、チーズ、卵黄にも少量のビタミンDが含まれています。

ただし、天然の食材から十分な量のビタミンDを摂取することは難しいために、海外では、ビタミンD強化食品を摂取することが推奨されています。

また、ビタミンDはサプリメントでも摂取できますし、日光に当たることにより皮膚で作られます。

ちなみに、2016年に報告された日本人を対象とした調査では、日本人の8割でビタミンDは不足しており、4割で欠乏していることがわかりました

ですから、とくに高齢者や日光に当たらない人では、ビタミンDが欠乏しないように、意識して摂取する必要があると考えられます。

ただし注意していただきたいのは、今回の研究結果は、あくまでビタミンD濃度とがんの予後に関係があるというだけで、がん患者さんがビタミンD不足を補ったからといって必ずしも生存率が改善するということではありません

ビタミンDだけを多く摂取するのではなく、バランスがとれた食事が重要なことは言うまでもありません。

ビタミンDの過剰摂取にも注意

一方で、ビタミンDを過剰摂取した場合には、食欲不振、体重減少、多尿、心臓不整脈などの非特異的症状を引き起こす場合があるそうです。

より深刻な場合には、カルシウムの血中濃度を上昇させ、血管や組織の石灰化を引き起こすために、腎結石などの病気になる可能性もあります。

ビタミンDの許容上限摂取量は、大人の場合、1日4,000 IU(100 µg)とされています。

私の場合は、サプリメントで2,000 IUとって、あとは、食事から摂るようにしています。

まとめ

というわけで、今回は、血中ビタミンD濃度が低いがん患者さんは生存率が低下、というお話でした。

 

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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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