がんの手術が決まった患者さんは、手術日までどのように過ごせばよいのでしょうか?
実際には、がん告知のショックから立ち直れないまま、手術に突入することが多いのではないでしょうか?
あるいは、がんと診断されてから引きこもってしまい、ほとんど外に出ないまま手術日を迎える患者さんもいるかもしれません。
しかし、このような事態は避けるべきなのです。
今回は、がんの手術日までの過ごし方について解説します。
がん手術日までの過ごし方:引きこもりに注意!
まず、がんの手術前に最も注意すべきことは、「引きこもらないこと」です。
がんを告知されたとき、ほとんどの患者さんは少なからずショックを受けます。しばらくは、気持ちが沈んだ状態が続きます。
なかには精神的な落ち込みがひどく、食事がほとんどとれなくなったり、仕事がまったく手につかなくなったり、日常生活に支障をきたす人もいます。
実際に、私の患者さんにも、がん告知の後でうつ状態となって引きこもってしまい、「入院日まで一度も家を出ず、家族以外の誰とも会わなかった」、という人もいました。
告知後の落ち込みが強く、引きこもってしまうと、手術をふくめその後のがん治療にさまざまな悪影響をおよぼします。
体を動かすことが少ないので、当然、筋肉が減ります。食欲もなくなり、栄養状態も悪化するおそれがあります。
また、昔から「病気の時には安静が必要」という考え方が根付いており、がんの場合でも安静にすることがよいと思い込んでいる人もいます。
実際に、がんと診断されたとたん、治療に専念するという理由で仕事を休み、お昼過ぎまで寝ていたり、家でごろごろと一日中何もせずに過ごす人がいます。
しかし、風邪などの感染症や、発熱を伴う消耗性の病気と違って、がんには安静は必要ないばかりか、むしろ弊害となります。
活動性の低下は体力(筋力)が落ちる原因となるだけでなく、がんのことを考える時間が増えることにもつながり、精神的にもよくありません。
ですから、活動的で規則正しい生活はがん治療の基本となります。
早寝早起きを心がけ、外に出て積極的に体を動かす生活をこころがけましょう。
もちろんがんによる症状によっては、動作が制限されたり、これまで通りの生活ができなくなることもありますが、できるかぎり仕事も家事も続けてください。
極端な話、「手術前日まで普段通り仕事にかよう」といった心構えでいいのです。
十分な睡眠をとりましょう
手術前には十分な睡眠をとりたいものです。
しっかりと睡眠時間を確保することは、規則正しい生活のリズムに不可欠です。
しかし、がんと告知されてからは、夜もゆっくり眠れなくなる人が多くなってきます。
不眠や熟睡できない日が重なると、体の調子をととのえるホルモンバランスが崩れますし、免疫システム(抵抗力)も弱くなります。その結果、手術後の回復やその後の治療経過にも悪影響を与える可能性があります。
実際に、手術前の睡眠障害が術後の経過に影響をおよぼすという研究結果が報告されています。
手術を予定した乳がん患者108人について術前の睡眠の質と術後経過との関係について調査した研究では、手術前に睡眠の質が低い(つまり、しっかり眠れていない)グループでは、術後のひどい痛みを訴えることが多くなり、追加の痛み止めが必要な患者が増えていました。
さらに、手術前の睡眠の質が低い患者では、術後合併症が多く、入院期間が長くなるという結果でした。
したがって、手術前にはできるだけ不眠を改善し、睡眠の質を高めることが重要です。
不眠の原因をさぐる
不眠を改善するには、まずはの原因をさぐることが大切です。
がん患者さんにみられる不眠(睡眠障害)の原因としては、以下のものが考えられます。
がん患者さんの不眠(睡眠障害)の原因
- がんの症状(痛み、嘔気、発熱、倦怠感など)
- がん治療(抗がん剤など)に伴う症状(副作用)
- 心理的原因(手術、がんの進行、死に対する不安、イライラ、生活、家族の心配など)
- 精神的原因(うつ病、せん妄、など)
- 長時間の昼寝、活動性の低下
実際には、「何となく目が覚めてしまって眠れない」というように、はっきりとした原因が分らないこともありますが、多くの場合、上記の原因がいくつか重なって不眠を引き起こしています。
なかでも、がんや手術に対する不安(心理的要因)が最も大きな原因となります。
不眠を解消するには
まずはあなたの不眠の原因をつきとめ、可能ならばその原因を取りのぞきましょう。
例えば、がんによる痛みが原因でぐっすり眠れない場合、鎮痛剤の量を増やす(あるいは変更する)必要があります。
また、術前に抗がん剤治療を行っている患者さんは、副作用で不眠になることもあります。遠慮せず主治医に相談してください。
どうしても不眠が解消されない場合には、不眠の薬やサプリメントを使うという手段もあります。
睡眠薬(睡眠導入剤や抗不安薬など)について主治医と相談してください。
主治医に言い出しにくい場合には、かかりつけ医に相談することをおすすめします。「眠れないくらいで・・・」と遠慮せずに積極的に医療者側にはたらきかけることが大事です。
この場合、不眠のタイプ(寝付きがわるい、途中で目覚める、熟睡できないなど)によって使用する薬が違うので、どのような感じで眠れないのかを詳しく伝えましょう。
また、睡眠薬には副作用もありますので、医師の指示を守って適切に服用しましょう。
まとめ
以上、がんの手術を成功させるための基本は、まずは「手術日まで引きこもらず、しっかりと睡眠をとり、規則正しい生活を送ること」です。
今までの生活を続けながら、プレハビリテーションについて計画しましょう。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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