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「がん」でも運動すべき理由3つ:運動でがん進行がストップするメカニズム

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なぜ、がん患者さんは運動すべきなのか?理由を3つあげて解説します。

はじめに

がん患者さんには、いつも、運動をすすめていますが、その理由としては、多くの観察研究において、運動をするがん患者さんのほうが、がんの再発や転移が少なく、生存期間が長くなるということが確認されているからです。

たとえば、乳がんと診断された患者さんが、ウォーキングやゆっくりとしたサイクリングなど中等度の運動を続けることで、死亡リスクが60%も減っていたことが新たな研究から明らかになったということです。

ただ、みなさん知りたいのは、「ただでさえきついのに、なぜ運動するほうがいいのか?」という説得力のある理由だと思います。

そこで今回は、「運動ががんの進行をおさえるメカニズム」について、これまでの研究によって明らかとなった3つの理由をあげて説明したいと思います。

運動ががんの進行をおさえるメカニズム

1.がん細胞の増殖抑制

運動をすると、筋肉から、「マイオカイン」という物質が、血液のなかにでてきます。

このマイオカインのなかには、色々な種類があるのですが、このうち、がんを抑える効果を発揮する「天然の抗がん剤」と呼ばれるものがあります。

代表的なものをあげてみますと、イリシン、スパーク、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-15(IL-15)などです。

これらのマイオカインの代表的な作用が、がん細胞の増殖を抑えるというものです。

たとえば、スパークです。

スパークは、2013年に、京都府立大学の研究グループによって、がんの増殖を抑えるマイオカインであることが報告されました。

この研究では、人がサイクリンなどの有酸素運動をすると、直後から血液のなかのスパークの濃度が上昇して、3時間くらいは高い状態が続いたということです。

さらに、このスパークを大腸がん細胞に与えていくと、濃度が増えるにしたがって、細胞の増殖が抑えられたということです。

この以外にも、運動によって色々なマイオカインが増えた血液の成分をがん細胞に加えると、がん細胞が増えるシグナルがストップすることがわかっています。

というわけで、運動すると、筋肉から血液のなかにマイオカインが分泌されて、がん細胞の増殖が抑えられるというわけです。

2.がん免疫を活性化

まず、運動すると、血液のなかに、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)やT細胞といった、がんを攻撃する免疫細胞が増えることがわかっています。

がん患者さんのなかには、血液中にがん細胞がただよっていることがあり、これを循環腫瘍細胞といいますが、運動で増えた免疫細胞が、血液中のがん細胞を攻撃することが予想されます。

さらに、運動によって筋肉から分泌されるマイオカインのなかには、局所(がんのあるところ)に免疫細胞を集めたり、がんに対する免疫細胞の攻撃力を強化するものがあります。

例えば、インターロイキン-6というマイオカインは、運動すると同時に分泌されるエピネフリンと合同で、がんと戦う免疫細胞のナチュラルキラー細胞(NK細胞)をがんに動員することがわかっています。

また、最近の報告では、マイオカインのひとつ、インターロイキン-15のはたらきによって、Tリンパ球が活性化されて、がんへの攻撃力を高めるということがわかりました。

実際に、がんの患者さんに手術前に有酸素運動をしてもらう臨床試験があったんですが、運動した患者さんから切除したがんの組織と、ふつうに過ごしてもらった患者さんのがんの組織をくらべてみると、運動をしたがん患者さんのがんには、攻撃をするタイプの免疫細胞が多く集まっていた、とのことです。

ですから、マイオカインによって、がん細胞の増殖をとめるだけでなく、NK細胞やT細胞といった免疫細胞を活性化することで、がんの進行を食い止めるというわけです。

3.がん転移のリスクが減少

最後は、運動によって、がん転移のリスクが減少するというメカニズムです。

まず、人における大規模なデータベースを使った観察研究によると、しっかりと運動をする人では、しない人に比べて、転移を認めるがんのリスクが73%も減っていたということです。

ではなぜ、運動すると、がんの転移が減るのか、についての研究を紹介します。

まず、血液の中をただようがん細胞(循環腫瘍細胞)が多いと、転移のリスクが高くなることがわかっています。

がんの患者さんが運動すると、血液中に循環しているがん細胞が減ったという研究報告があります。ですので、運動することで、からだをめぐるがん細胞が減って、転移のリスクが減るというわけです。

もうひとつは、運動によって、臓器の代謝環境が変化して、がん細胞が転移しにくくなる、というメカニズムです。

最近報告された論文では、運動させたマウスの臓器では、グルコースの取り込み、ミトコンドリアの活性など、エネルギー代謝が変化することで、がんに栄養を与えない環境を作っていました。

つまり、運動によって、各臓器のエネルギー代謝が高まり、転移してきたがん細胞(よそ者)が育ちにくい環境に変わるということです。

ですから、がん細胞が臓器に到達したとしても、そこで成長しないため、転移しにくくなるというわけです。

 

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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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