がんの手術前には何を食べたらいいのでしょうか?
基本的には、タンパク質を中心に、バランスよく栄養をとることが推奨されています。
しかし、タンパク質やその他の栄養素の必要性には個人差があります。
手術前の食事のメニューを考えるとき、自分の検査データから栄養状態を知り、術前にできるだけ補正することはとても大切になってきます。
そこで、今回は、がん患者さんが栄養状態を把握する方法を紹介します。
がん患者さんの栄養状態を把握する方法
手術を控えたがん患者さんは、できれば自分の栄養状態を知っておきたいものです。では自分の栄養状態を知る方法はあるのでしょうか?
もちろん主治医に直接聞いてもよいのですが、検査値などから自分で調べることもできます。
栄養状態をあらわす指標:ヘモグロビン
栄養状態を評価するひとつの指標として、貧血の有無があります。
貧血の有無を判断する簡便なマーカーとして、血液中のヘモグロビン値があります。
血液中のヘモグロビンの正常な値は、検査システムによって若干異なりますが、
男性:13.0~16.5g/dl
女性:11.5~14.5g/dl
となっています。
したがって、男性の場合、13.0g/dl未満、女性の場合、11.5g/dl未満であれば、貧血が疑われます。
もし、貧血がある場合には、(主治医と貧血の原因について相談した上で)鉄分が多く含まれる食品(レバー、あさり、ひじき、ほうれん草など)をとりましょう。
栄養状態をあらわす指標:血清アルブミン値
栄養状態(とくにタンパク質の不足)を評価するときに最もよく使われるマーカーが、血清アルブミン値です。
血清アルブミンの基準値(正常値)は、測定法や測定機器によって多少ばらつきがありますが、一般的に4.0 g/dl(グラム・パー・デシリットル)以上とされています。
アルブミン値が4.0 g/dl未満、特に3.5 g/dl以下の場合は栄養障害が疑われます。
術前の血清アルブミン値が低いがん患者は、術後の合併症リスクが高くなり、生存期間も短くなるということが報告されています。
たとえば、手術を受けた卵巣がん患者604人を対象とした研究によると、術前に血清アルブミン値が低いグループ(3.5 g/dl以下)では、正常のグループに比べ、重症の合併症がおこるリスクがおよそ3.7倍も高くなっていました。
さらに、血清アルブミン値が低いグループの全生存期間(中央値)は24ヶ月であり、正常のグループの83ヶ月に比べ、有意に短いという結果でした。
このように、術前にアルブミン値が低下している患者さんは、術後の合併症や死亡率が増え、最終的には生存期間が短くなることが示されています。
栄養状態をあらわす指標:PNI(予後栄養指数)
また、アルブミン値よりも栄養状態をより的確に反映し、多くの研究に使われているのが予後栄養指数(Prognostic Nutritional Index: PNI)です。
このPNIですが、
PNI =(10×Alb)+(0.005×TLC)
の式で計算できます。
ちなみに、Albは血清アルブミン値(g/dl)で、TLCは総リンパ球数(/マイクロリットル)です(総リンパ球数は、白血球数×リンパ球の割合で計算できます)。
つまりPNIは、血液中のアルブミンというタンパクの量と、免疫に関係するリンパ球の数を足したもので、栄養と免疫の状態を同時に評価できるすぐれた指標なのです。
例えば、血清アルブミン値が4.2g/dlで、白血球数が8000/μl(リンパ球30%)の場合、総リンパ球数は8000×0.3 = 2400となりますので、PNI = (10×4.2) + (0.005×2400) = 54となります。
どちらも手術前の血液検査で調べることが一般的ですので、主治医から検査データのコピーをもらいましょう。
このPNIが高ければ高いほど栄養(免疫)状態がいい(低ければ悪い)ということになりますが、一般的には正常値(栄養障害のない患者さん)は50〜60です。
また、消化器がんの手術において、消化管の切除および吻合(つなぎなおすこと)が必要な場合、PNIが45以上であれば「手術可能」、40<PNI<45だと「注意が必要」、またPNIが40以下だと「切除・吻合は禁忌(きんき:危険なのでしてはいけない)」とされています。
多くのがん(特に消化器系のがん)で、術前PNIと術後合併症の発生率および術後生存期間(予後)との関係が指摘されています。
たとえば、手術を行った胃がん患者260人について、術前のPNIと術後の生存期間との関係を調査した日本からの研究報告によると、術前のPNI が低い(47未満)患者では、術後の合併症の発生が増加し、さらに全生存期間と無再発生存期間がともに短い(長期予後が悪い)という結果でした。
同様に、大腸がん患者3569人を対象とした研究でも、PNIが低くなるにつれ、術後合併症の発生率が高くなり、入院期間が延長し、さらに生存期間が短くなるという結果でした。
栄養状態が悪いがん患者さんは主治医と相談しましょう
このように、血清アルブミン値やPNIが低い患者さん(アルブミン値は3.5g/dl以下、PNIは45以下)では、タンパク質を中心とした食事をとることや、重点的な栄養サポート(例えば栄養補助食品など)が必要であるといえます。
まずは主治医(あるいは、可能であれば栄養士)とも相談し、最も効率のよい栄養サポートの方法を考え、実践しましょう。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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