「フキノトウにがん増殖抑制成分 岐阜大グループ発見」というニュースがながれました。フキノトウの成分「ペタシン」は、どのようなメカニズムでがんを抑制するのでしょうか?副作用の少ない抗がん剤開発に期待をこめて解説します。
はじめに
2021年9月に、このようなニュースが流れました。
「フキノトウにがん増殖抑制成分 岐阜大グループ発見」という見出しです。
フキノトウはご存じのように春の山菜のひとつで、食べる機会はあまりないのですが、身近な植物から抗がん剤の候補がみつかったということで、わたし自身おどろきました。
はたしてフキノトウの成分は、どのようなメカニズムでがんを抑制するのでしょうか?
今回は、報告された研究結果を、新たな抗がん剤開発にむけての期待をこめて紹介したいと思います。
フキノトウの成分ががん増殖を阻害
昨年2021年に、J Clin Invest という雑誌に報告された論文です。
まず、岐阜大学の研究チームは、植物から抽出された様々な成分のなかから、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体(ETCC1)を阻害する物質を探しました。
その結果、日本原産植物のフキノトウに多く含まれる「ペタシン」という天然の化合物が、既存の化合物の1700倍以上高い活性で、ETCC1を阻害することを発見しました。
このETCC1は、細胞が増殖するときのグルコースやグルタミンなど栄養素の取り込みに重要な役割をはたしているタンパクです。
ですから、ETCC1を阻害すると、栄養素の取り込みができなくなって、とくに活発に増殖・分裂をくりかえしている「がん細胞」はエネルギーなどが枯渇して死んでしまうというわけです。
正常細胞にもETCC1は存在していますが、これを阻害しても、生存に必要な代謝物が確保できるために、死なないということです。
ペタシンは、乳がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、膀胱がん、前立腺がん、悪性黒色腫、肉腫、白血病など幅広い種類のがん細胞に対して非常に強い抗がん作用を示したということです。
一方で、正常細胞にはほとんど影響を与えなかったということです。
動物実験では、ペタシンの投与によって神経芽腫の腫瘍の成長が抑えられ、また、乳がんの転移も抑制されました。
以上の結果から、ペタシンは、がんのエネルギー代謝を標的とする新しいがんの増殖・転移を阻害する薬として有望と考えられます。
では、単純に考えると、フキノトウをたくさん食べると、がんが小さくなる可能性がありますが、実際にはどうなのでしょうか?
これについては、まだ臨床試験や観察研究などがありませんので、「現時点ではわからない」としか言いようがないのですが、少なくとも、フキノトウを食べるだけでは、十分な量のペタシンをとれない可能性が高いと考えられます。
より現実的には、ペタシンを使った抗がん剤の開発を期待したいと思います。
従来の抗がん剤の多くは、正常細胞へもダメージを与えてしまい、副作用が多いことが問題ですが、このペタシンは、正常細胞へのダメージは少ないということで、副作用が少ないのではないかと考えられています。
ただ、まだ動物実験の段階ですので、抗がん剤として人に使えるようするためには、臨床試験も含めて多くの研究課題が残されています。
そこで岐阜大学の平島先生らは、ペタシンを使った抗がん剤を開発するために、今年の3月にクラウドファンディングを実施して研究資金を募り、プロジェクトが達成されました。
今後の研究開発に期待したいと思います。
というわけで、フキノトウの苦み成分でがん治療というお話でした。
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