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「寒さ」でがん治療?暖めるより冷やした方がいい?最新の研究結果(ネイチャー)を医師が解説

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最新の研究結果からわかった、意外な「がんの新事実」を紹介します。それは、「寒さ」でがんが治療できるかもしれないというものです。寒さ刺激による褐色脂肪組織の活性化とがん成長の抑制に関する最新の論文を紹介します。

はじめに

今回は、最新の研究結果からわかった、意外な「がんの新事実」を紹介します。

それは、「寒さでがんが縮小するかもしれない」というものです。

ただし今回は、あくまで動物実験の結果が中心で、人での実験結果はごく予備的な段階であり、治療効果が確認されたわけではありません。

とはいえ、非常に興味深い研究結果であり、将来的には(比較的簡単な)新しいがん治療法になる可能性もありますので、今回、初回したいと思います。

寒さ刺激で活性化する脂肪組織とは?

まず、人が「寒さ」にさらされるとどうなるか?ということですが、あるタイプの脂肪組織が活性化されます。どういうことでしょうか?

脂肪組織は、大きく褐色脂肪組織と白色脂肪組織とに分類されます。

それぞれの特徴について解説します。

白色脂肪組織

大部分の脂肪組織は、白色脂肪組織で、太るときに過剰に貯まってくる脂肪です。

皮下や内臓周囲に存在します(いわゆる皮下脂肪とか内臓脂肪と呼ばれるものですね)。

役割は、エネルギーを蓄えて、食事がとれない場合などの飢餓状態のときに、エネルギーを放出します。

褐色脂肪組織

一方で、褐色脂肪組織は、成人では少なく、肩甲骨周囲、腎臓周囲、および腹部大動脈の周囲など、限られた部位に存在します。

褐色脂肪組織のおもな役割は、寒さの刺激に反応して、より多くのカロリーを消費して熱を産生することで、体温を維持することです。

新生児には豊富に存在していて、生まれたときの急激な寒さへの曝露に際して、体温の低下を防ぐ役割を担っています。

ところが成人では、褐色脂肪組織量が白色脂肪組織に比して圧倒的に少なくなります。

この褐色脂肪組織は、グルコースを活発に取り込むため、PET検査で検出されることがわかりました。

PETでは、肩甲骨や椎体(背骨)、および腎臓の周囲などに存在することがわかります。

褐色脂肪組織は、「寒さ」に曝露されると活性化されます。

寒冷刺激を受けた人では、褐色脂肪組織の活性が高まっていることがわかります。

この褐色脂肪組織の活性が、肥満度と逆相関することが明らかにされたことから、褐色脂肪組織機能は肥満に対する新たな予防・治療標的組織として注目されています。

さらに最近の研究では、この褐色脂肪組織の活性化は、全身およびがん細胞の代謝の変化をもたらして、がんの成長にも関係することがわかってきました。

今回、最新の研究から、この寒さ刺激による褐色細胞組織の活性化が、がんの成長を抑えるということが明らかとなりました。

褐色細胞組織の活性化が、がんの成長を抑える

今年の8月3日に、Natureという科学雑誌に報告された論文です。

まず、この研究では、マウスのがんのモデルを使って、温度ががんの成長に与える影響を調べています。

大腸がんを移植したマウスを、30℃と4℃で飼育したところ、4℃という寒い環境で飼育したマウスのがんの成長は、30℃のマウスと比べて、有意に小さく、また、生存期間も長くなっていました。

4℃というのは冷蔵庫の温度ですから、非常に寒いわけですが、マウスにとっては、耐えられる温度ということです。

この寒さ刺激によるがんの抑制は、大腸がんに限らず、難治がんといわれているすい臓がんでも確認されました。

なぜがんが小さくなったか、というメカニズムについてですが、寒さ刺激で褐色細胞組織の活性が高まって、血中のグルコースが低下して、がん細胞が増殖するときに必要なグルコースが枯渇したことが原因であることが実験でわかりました。

次に、実際の人での実験もおこなっています。

健康な人を対象として、薄着をして、16℃のやや寒い温度で1日2~6時間過ごしてもらうことを、合計14日間続けました。

その結果、健康な人では、PETで褐色脂肪組織の部位の取り込みが増えており、活性化されていることが確認されました。

また、がん患者さん(ホジキンリンパ腫)にも同じように、22℃の温度で1週間すごしてもらいました(そんなに寒い温度ではないですね)。

すると、健康な人と同じように、褐色脂肪組織が活性化されていました。一方で、暖かい28℃の温度では、活性が低下していました。

さらに、寒さ刺激によって、グルコースの腫瘍(リンパ腫)の部位の取り込みは低下していました

つまり、がんの部位のグルコース(栄養)の取り込みが低下していたということです。

1人の患者さんでの実験ですから、この結果をもって、「寒さ」でがんが小さくなるとは言えませんが、可能性はあると結論づけています。

ただ、もし、この「寒さ刺激の治療」が有効であるとしたら、簡単で、費用もかからず、ほぼすべてのがんの種類に使えるとのことで、とても期待される治療法になると考えられます

また、海外では「Cool Fat Burner」という、冷却ベストが販売されています。

これは、着るだけで冷却刺激が与えられて、褐色脂肪組織を活性化して、肥満を改善する目的のベストだそうです。

アメリカのNYにある有名な「マウントサイナイ医科大学」の附属病院で実際に試験をして、血糖値を下げる効果が確認されているとのことです。

このベストは「やせる」目的のものですが、今後の研究次第では、全く新しいがんの治療として、こういった「寒さ」刺激を与える装置が試されるかもしれません。

まとめ

寒さ刺激によって褐色脂肪組織を活性化することが、がんの新しい治療になる可能性があるという研究結果を紹介しました。

ただし、まだ動物実験のレベルでの話ですので、実際の人において寒さでがんが縮小するという証拠はありません。

ただ、人の「寒さ」に対する反応を利用するという画期的なメカニズムであることは確かです。

わたし自身、今後の研究が進むことを期待しています。

 

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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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