生活習慣病やがんの原因・症状(サイン)として、血液がドロドロしている、あるいは、ネバネバしているといった表現を目にすることがあります。はたして、血液ドロドロはがんのサインなのでしょうか?
はじめに
生活習慣病やがんの原因として、血液がドロドロしている、あるいは、ネバネバしているといった表現を目にすることがあります。
また、血液が汚れているという意味で「汚血」という言葉を使っている本などもあります。
例えば、ある本では、がんも血液の汚れが原因なので、汚い血を吸引することで治るという持論を述べているものもあります。
はたして、血液ドロドロはがんの原因またはサインになるのでしょうか?
調べてみました。
血液ドロドロはがんの原因?
結論から言うと、血液ドロドロとか、血液サラサラという表現は、当然、医学用語にはありません。
ただ、病気によっては、血液の見た目の濁り具合や粘り気やが変化することはあります。
たとえば、脂質異常症(高脂血症)の患者さんでは「血液が濁る」ことがあります。
このように、採血した血液を遠心分離すると、この右側のサンプルの様に、血清の層に白っぽい濁った層ができます。
これは、乳び血清といって、カイロミクロンと呼ばれるリポ蛋白が増加しているためにこう見えるのですが、中性脂肪が高い人や、食後すぐに採血した場合にみられることがあります。
では、がんについてはどうでしょうか?
一般的には、ほとんどのがん(とくに固形がん)では、実際に血液がドロドロになったり、濁ったりすることはありません。
ただ、ある特殊な「がん」では、血液がドロドロになるという症状があります。
その特殊ながんとは、「多発性骨髄腫」です。
多発性骨髄腫は、白血球の中のリンパ球のうち、B細胞から分化した形質細胞ががん化したもので、異常な骨髄腫細胞がおもに骨髄で増える病気です。
多発性骨髄腫では、Mタンパクと呼ばれる異常な抗体が増えるのが特徴ですが、血液中のMタンパクが増えると、血液の粘り気が高くなります。
これを、過粘稠度(かねんちょうど)症候群といって、血液を顕微鏡で見ると、赤血球がこのように、硬貨を重ねて、それをずらしたように連なってみえる状態(連銭)がみられます。
この過粘稠度症候群が原因で、めまいや頭痛、視力障害、などの症状が引き起こされることがあります。
ただ、この「多発性骨髄腫」以外のがんでは、血液がドロドロになることはありません。
がんと血液凝固異常
もうひとつは、がんになると、血液がかたまりやすくなって、血栓ができやすくなります。
とくに、がん患者さんには、深部静脈血栓症の発症リスクが増えることがわかっています。
逆に、血栓のくわしい検査でがんが見つかるというケースもあります。
ですから、血液ドロドロというよりも、血栓症ががんのサインになることはあります。
また「血液ドロドロ」という表現があてはまるのかどうかわかりませんが、水分が足りなくて脱水になると、hemoconcentration(ヘモコンセントレーション)と言って、血液が濃くなって、血栓ができやすくなります。
ですから、とくに高齢者の場合には、普段から飲み物や食べものから水分をたくさんとることは重要です
というわけで、血液ドロドロは、一般的ながんのサインではありませんし、がんの原因でもありません。
また、本などに書かれている「血液の汚れ」が何を意味するのか詳しくは知りませんが、血液の汚れががんの原因になることもありません。
ですから、一部の民間療法で行われているような、がんに対する血液浄化療法や汚血吸引療法といったものも、まったくエビデンスがありませんので、注意していただきたいと思います。
というわけで、今回は、血液ドロドロはがんのサイン?というお話しでした。
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