がん細胞の特徴として、無限に増え続ける能力があります。正常の細胞には寿命(分裂の限界)がありますが、がん細胞にはありません。なぜでしょうか?今回は、がん細胞が無限に増え続けることができる理由を2つ解説します。
はじめに
がん細胞の特徴として、無限に増え続ける能力があります。
ですから、多くの場合、治療しないと、がんはどんどん大きくなっていくわけです。
がん組織から樹立された培養細胞は、きちんとした条件でシャーレで培養すると、永遠に増え続けることができます。
この「無限に増え続ける能力」が、悪性腫瘍の特徴でもあるわけですが、どうして、正常の細胞はできないのに、がん細胞は無限に増え続けることができるのでしょうか?
今回は、がん細胞が無限に増え続けることができる理由を2つお話します。
がんが無限に増え続ける理由
1.テロメアが短くならない
正常細胞は、「老化」や「アポトーシスというプログラムされた細胞死」によって、無限に増え続けることができません。
じつは、がん細胞は、いくつかの方法を巧みに利用して、「老化」や「細胞死」から逃れているんです。その一つは、染色体の端っこにあるテロメアに関係しています。
細胞の遺伝情報を伝える染色体の両端には、じつは、決まった配列パターンのDNA構造がくりかえしつながっている帽子の部分があります。これを、テロメアといいます。
テロメアは、染色体の末端を保護する役割をもっていて、細胞が分裂するたびに、このテロメアが少しずつ短くなっていきます。
そして、限界に達すると、細胞が老化して、分裂がストップします。
ですから正常細胞には、テロメアの長さで規定された寿命があるというわけです。
例えば、線維芽細胞などの正常細胞を培養すると、ある一定の回数分裂すると、テロメアが短くなって分裂がストップします。
この細胞分裂回数の限界をヘイフリック限界といいます。
一方で、がん細胞は無限に分裂を続けることができます。
なぜでしょうか?じつは、このテロメアを伸ばす酵素というのがあって、それをテロメラーゼと言います。
この酵素が活性化されていると、テロメアが短くならないので、不老不死になります。
がん細胞の多くは、このテロメラーゼが活性化されていて、分裂を繰り返してもテロメアが限界まで短くならないので、無限に分裂できる能力を持っているというわけです。
2.細胞死・老化のスイッチが破壊
通常、細胞のDNAに傷がついた場合には、間違った遺伝情報が子孫に伝わることを防ぐために、あやしい細胞を除去するスイッチがあります。
このスイッチの代表的なものに、TP53(p53)という遺伝子があります。
なんらかの原因で、細胞のDNAに傷が入ると、このTP53が働いて、細胞をアポトーシスという細胞死に導いたり、細胞を老化させるシグナルが入ります。
なので、たとえば、がん細胞のように遺伝子に傷をもつ細胞は、それ以上分裂できずに、自然と除去されていくはずです。
ところが、多くのがん細胞では、このTP53に変異(遺伝子配列の異常)があって、スイッチが破壊されているので、DNAに傷があっても除去されずに生き残って、増えていくことができます。
このような方法を使って、がん細胞は無限に増え続けることができるわけです。
がんの特徴を利用した最新がん治療
一方で、このがん細胞のテロメア・テロメラーゼや遺伝子変異をターゲットにすれば、治療法の開発につながる事も考えられます。
たとえば、テロメライシン(OBP-301)は、遺伝子改変されたアデノウイルスで、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することで、がん細胞を溶解させるウイルスです。
テロメライシンは、岡山大学で食道がんを対象とした放射線併用療法の臨床試験が進んでいますが、6割以上の症例で食道の腫瘍が消失したという非常に有望な結果を報告しています。
この他にも、肝細胞がん、頭頸部がんを対象とした臨床試験が始まっています。
今後、もっと多くのがんの特徴を利用した治療法が開発されることを期待したいと思います。
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