最新のがん研究から、衝撃的な事実をお伝えします。乳がんやすい臓がんなど、多くのがんの内部にバクテリア(細菌)が確認されました。がん内部の細菌はどんな役割をはたしているのでしょうか?
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はじめに
今回は、最新のがん研究から、衝撃的な事実をお伝えします。
結論から言うと、多くのがん患者さんで、がんの内部に、バクテリア(細菌)が存在することが発見されました。
これは、我々、がん研究者でもびっくりするような報告で、注目が集まっています。
もともと、腸内細菌の研究に関連して、大腸がんでは、がんの内部に様々な細菌がいることがわかっていました。これは、大腸のなかには細菌がたくさんいるので、なんとなく理解できますね。
ところが、乳がんやすい臓がんといった、以前は、無菌だと信じられていたがんからも、細菌がたくさん発見された、という報告がでました。
この研究を紹介したいと思います。
がんの内部にバクテリア(細菌)を発見
昨年2020年に Science という有名な科学雑誌に報告された論文です。
この研究では、がんの症例1526例について、がんの組織と正常の組織をつかって、どんな細菌がどのくらいいるか、について調べました。
調べたがんは7種類で、乳がん、肺がん、卵巣がん、膵臓がん、メラノーマ(皮膚がん)、骨腫瘍、そして、脳腫瘍でした。
まず、がんの組織からDNAを採取して、細菌を検出したところ、がんの種類によって違いますが、10~70%のがん患者さんのがん組織から細菌が検出されました。
このうち60%以上の症例で細菌が確認されたのは、膵臓がん、骨腫瘍、そして、乳がんでした。ですから、この3つは、細菌が多いということがわかります。
次に、がんの組織のなかで、細菌がどこに存在するのかを、顕微鏡の検査で調べました。
その結果、細菌は、細胞の外だけでなく、がん細胞の中、そして、マクロファージなど、免疫細胞のなかにも存在することがわかりました。
通常は、細胞は、しっかりとした膜のバリアが存在するわけですが、この膜のバリアを破って、細菌が侵入しているということになります。
さらに、がんの内部の細菌の多様性を調べたところ、一番、多様性が高いのが乳がんで、また、細菌の種類が一番多いのが乳がんでした。
つまり、乳がんの内部には、色々な種類の細菌が、まんべんなく豊富に存在しているということです。
このがん内部の細菌の種類や量は、がんの種類によって違うことがわかりました。
つまり、乳がんには乳がんの、膵臓がんには膵臓がんに特異的な細菌が存在していたということです。
がん内部の細菌の役割
では、がんの内部に潜んでいる細菌は、いったい、どんな役割をはたしているのでしょうか?
じつは、まだ、はっきりとは解明されていません。
ただ、いくつかの役割が明らかになりつつあります。
1.発がん・がんの進行に関係?
おそらく、がんの内部の細菌は、発がんやがんの進行に関係しているといわれています。
たとえば、細胞のなかに入った一部の細菌が、DNAを傷つけて、発がんの原因になることがわかっています。
また、じっさいに、大腸がんでよく発見されるフソバクテリウム・ヌクレアタムという細菌は、動物実験で、発がんやがんの成長を促すことが確認されています。
2. がんの転移に関係?
これも、ごく最近わかったことですが、がん細胞の中の細菌は、がんの転移を促進している可能性があることが報告されました。
つまり、細菌と一緒に旅をするがん細胞のほうが、目的地である転移臓器へたどり着く可能性が高くなることがわかっています。
次回、別の動画で紹介したいと思います。
3.治療が効くか効かないかに関与
一部の研究では、がんの内部の細菌の種類によって、抗がん剤の効果に差があることがわかっています。
つまり、ある細菌ががんの内部に存在すると、抗がん剤が効かなくなるわけです。ですので、たとえば、抗生物質でそのがんの内部の細菌を除菌すると、ふたたび抗がん剤が効くようになるという実験結果もあります。
ですから、がん内部の細菌は、治療の効果や生存期間にも影響していることがわかっています。
今後、こういったがん内部の細菌をターゲットにしたがん治療が開発される可能性があります。
まとめ
というわけで、ちょっと難しい研究のお話でしたが、がんの内部にバクテリアが存在するというお話でした。
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