運動をすると、体のなかのがん細胞はどうなるのか?という疑問があります。今回、実際にがん患者さんを対象として、運動(有酸素運動)が血液中に流れるがん細胞(循環腫瘍細胞:CTC)に与える影響を調べた研究を紹介します。
はじめに
がん患者さんには、運動(有酸素運動と筋トレ)をおすすめしています。
がん患者さんが運動をすることで、がんの再発を21~35%減らし、がんによる死亡率を28~44%減らし、そして、すべての死因による死亡率を25~48%も減らすことができるということです。
これ以外にも、運動には、抗がん剤など治療の副作用を軽減したり、生活の質を高める効果も報告されています。
こういったエビデンスに基づいて、アメリカ対がん協会(ACS)や米国臨床腫瘍学会(ASCO)の最新のガイドラインでも、がん患者さんには、治療中にも定期的に運動をすることを推奨しています。
ただ、実際に運動をすると、体のなかのがん細胞はどうなるのか?という疑問があります。
なかには、運動で血流がよくなって、がん細胞が広がるのではないかと不安に思う人もいると思います。
今回、実際にがん患者さんを対象として、運動が血液中に流れるがん細胞に与える影響を調べた研究を紹介します。
運動によって血液中のがん細胞は増える?減る?
2018年にPlos Oneという雑誌に報告された論文です。
アメリカのがんの専門病院など複数の施設で行われた臨床試験です。
ステージI~IIIまでの大腸がんに対して手術を受けた患者さん23人を、3つのグループにランダムに分けました。
1つめは、特別な運動をしない通常のケアを行ったグループ(コントロール)
2つめのは、週に150分間の有酸素運動をするグループ(軽い運動グループ)
3つめのは、週に300分間の有酸素運動をするグループ(きつい運動グループ)
すべての患者さんから採血をして、血液中に循環しているがん細胞(循環腫瘍細胞:circulating tumor cells、CTC)を測定しました。
試験開始時に、78%の患者さんが、循環がん細胞が陽性でした。
そして、グループ分けをしてから6ヶ月後に経過をみました。
その結果、コントロールのグループでは、循環がん細胞の数は変わっていませんでしたが、軽い運動グループ、および、きつい運動グループでは、どちらも、循環がん細胞の数が減っていました。
ちなみに、軽い運動グループときつい運動グループの間にとくに差はなかったということです。
同時に、運動のグループでは、BMI(体格指数)および血液中のインスリンの値も下がっていたとのことです。
まとめ
大腸がん患者さんを対象とした研究では、運動によって、血液中の循環細胞が減っていました。
ただし、今回の研究は、ランダム化比較試験とはいえ、患者さんの数が少なく、また、ステージもばらばらの色々な背景の患者さんが参加したことなどの制限があります。
今後、より大規模な臨床試験で、運動の効果を確認してほしいと思います。
いずれにしても、運動によって、血液中のがん細胞は減ることが示されました。
これは、運動によってがんの再発が減り、生存率が改善するという過去の観察研究の裏付けになる結果だと思います。
やはり、週に150分間(1日30分を5日間)の散歩程度の軽い運動でもいいので、ぜひ、続けてもらいたいと思います。
できれば、筋トレもやりましょう!
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