日本では初となる「がんウイルス療法」の新薬、テセルパツレブ(商品名:デリタクト)が脳腫瘍(神経膠腫)に承認されました。今回は、がんウイルス療法とはどんな治療か、どういったがんに効果が期待できるのか、について解説します。
はじめに
最近、「がんウイルス療法」という言葉を聞くことが多くなってきました。
2021年6月11日、厚労省が、日本では初となる「がんウイルス療法」の新薬の製造販売を承認しました。これは、「テセルパツレブ(商品名:デリタクト)」というウイルス治療薬で、非常に悪性度の高い脳腫瘍の一種である悪性神経膠腫(こうしゅ)に対して使われるようになります。
これ以外にも、色々ながんウイルス療法の開発、臨床試験がすすんでいます。
今回は、「がんウイルス療法」について、どんな治療なのかを解説します。
「がんウイルス療法」はどんな治療か?
がんウイルス療法とは、ウイルスを用いたがん治療の総称で、色々なタイプの治療法が含まれています。
例えば、ウイルスを使ってがん細胞にある特定の遺伝子を導入して、がん細胞を殺すもの。これには、一時期話題となっていたp53遺伝子のウイルス導入治療などがあります。
また、ウイルスの遺伝子を改変して、がん細胞だけで増えて、細胞を破壊するという「腫瘍溶解ウイルス」と呼ばれるものがあります。
このうち、現在、臨床試験が行われているものは、多くは腫瘍溶解ウイルスです。
「腫瘍溶解ウイルス」は、正常な細胞内では増殖せず、感染したがん細胞内だけで特異的に増殖し、細胞を破壊するウイルスのことです。
破壊のさいに放出されたウイルスは周囲のがん細胞に感染することで、治療の効果が高まることが期待されます。
さらに、破壊されたがん細胞の断片を抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)が認識し、がんに対する免疫が活性化されるという利点もあります。
このように、がん細胞だけで増えるウイルスには、今後有望なものとしては、テセルパツレブを含めて3つあります。この3つを紹介します。
1.テセルパツレブ
まず、今回、脳腫瘍の神経膠腫に対して適応となった「テセルパツレブ」は、正式にはG47Δ(ジー四七デルタ)という名前で、単純ヘルペスウイルスを、がん細胞だけで増えるように遺伝子改変したものです。
この薬の治験のデータとして、悪性神経膠腫では手術など標準的な治療後に再発した場合、1年後の生存率が15%程度とされるのに対し、この薬を使った人では1年後の生存率が92.3%だったということです。
実際に、悪性度の高い脳腫瘍に対する治療の新しい選択肢として、大変、期待されています。
2.C-REV(旧称 HF10)
C-REV(旧称 HF10)は、単純ヘルペスウイルス由来の腫瘍溶解ウイルスです。遺伝子工学的改変を一切行っていない自然変異型のウイルスというのが特徴です。
日本および米国において悪性黒色腫(メラノーマ)を対象とした第Ⅱ相臨床試験を実施した結果、C-REVの有効性を示唆するデータを得たということで、悪性黒色腫に対して承認申請を行いました。
しかしながら、タカラバイオは、2019年9月、この申請を取り下げると発表しています。これは、おそらく、十分な有効性が確認できなかったという理由だと考えられます。
ただし、C-REVは、悪性黒色腫に限らず、現在、頭頸部がん、(再発性)乳がん、切除不能の膵臓がんに対する医師主導臨床試験が行われています。
今後、どういう対象疾患に申請され、臨床に導入されるかについてはまだわかりません。
3.テロメライシン(OBP-301)
テロメライシン(OBP-301)は、遺伝子改変されたアデノウイルスで、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することで、がん細胞を溶解させるウイルスです。
テロメラーゼとは、DNAの端っこに存在して、細胞分裂のたびに短くなるテロメアを延ばす酵素で、多くのがんで活性が高まっています。
テロメライシンは、岡山大学で食道がんを対象とした放射線併用療法の第2相臨床試験が進んでいますが、これまでの途中経過では、13例中8例(6割以上)で食道の腫瘍が消失したという非常に有望な結果を報告しています。
この他にも、肝細胞がん、頭頸部がんを対象とした臨床試験が始まっています。
このテロメライシンについては、2023年以降に中外製薬が先駆け審査指定制度を利用して承認申請を目指しているということです。
これ以外にも、さまざまなウイルスから腫瘍溶解性ウイルスが開発されています。
「がんウイルス療法」の気になる副作用は?
ウイルスを使った治療ですので、一般的に、発熱や風邪症状など、通常のウイルス感染による副作用が観察されます。
ただ、これまでの臨床試験では、軽い副作用だけで、重いものは報告されていません。
「がんウイルス療法」どんながんに使える?
原則的には、ウイルスを直接、腫瘍に注入することが必要となります。
ですので、からだの表面にあるがん(皮膚がん、頭頸部がん、乳がん等)、体の外から注入できるもの(肝臓がん等)、内視鏡で注入できるもの(食道がん、胃がん、膵臓がんなど)に対して使えると考えられます。
「がんウイルス療法」はいつ頃使える?
脳腫瘍以外については、臨床試験の段階ですので、承認まで最低でも2~3年はかかるといわれています。
ただ、非常に希望の持てる治療法だと思いますので、今後の動向に注意したいと思います。
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