がん等の手術前から始める運動、栄養サポート、および精神的ケアを中心とした一連のプログラムを、プレハビリテーションと言います。
多くの研究によると、プレハビリテーションによって、術後の合併症が減り、回復が早まり、入院期間が短くなることが示されています。
手術前に栄養状態を改善させるためには、食事だけでは不十分であり、栄養補助食品を用いた研究も行われています。
今回は、肺がん患者を対象とした、術前からの(タンパク質が豊富な)栄養補助食品の摂取によって、術後の合併症が減ったとする研究を紹介します。
手術前からの栄養補助にて合併症が減少
肺がん(非小細胞肺がん)患者を対象としたランダム化比較試験です。
58人の肺がん患者を、手術10日前からタンパク質が豊富な栄養補助食品(アルギニン、オメガ3不飽和脂肪酸、ヌクレオチドが含まれる)を摂取するグループ(栄養補助群:31人)と、通常の食事だけのグループ(コントロール群:27人)にランダムに割り付けました。
明らかに栄養不良(低栄養状態)がある患者は除外されました。
これらの患者に対して肺の切除術を行い、術後の経過(栄養の指標としての血清アルブミン値、合併症、胸腔ドレーン留置の期間など)について比較しました。
その結果、
■ コントロール群における術後3日目の血清アルブミン値は、術前のレベルよりも約26%低下していましたが、栄養補助群では、約15%の減少にとどまっており、栄養状態の悪化が軽度でした。
■ 合併症の発生率は、コントロール群で44%(12人)であったのに対して、栄養補助群では19%(6人)と有意に低くなっていました。
■ 胸腔ドレーン留置の期間は、コントロール群で6日間(1~42日)であったのに対して、栄養補助群では4日間(2~15日)と短くなっていました。
以上の結果より、肺がん患者において、肺切除術前からの栄養補助療法は、術後の合併症を減らし、胸腔ドレーン抜去までの期間を短縮することが示されました。
比較的、規模は小さい臨床試験ではありますが、術前からの栄養補助食品の摂取は術後の経過を改善する可能性を示した研究結果です。
がん手術前の栄養補助食品
がん手術前の栄養サポートとしては、食事からタンパク質を摂ることが原則ですが、それに加えて、術前から栄養補助食品を利用するのもいいと思います。
ネットでも購入可能な栄養補助食品を紹介します。
インパクト
インパクトは、アルギニン、オメガ3不飽和脂肪酸、RNAを配合した特別な組成の栄養調整食です。
こちらも1パック(250ml)中に10.5gのタンパク質(うちアルギニンが2.4g)を配合しています。
インパクト(ネスレ) | |
量(1本あたり) | 125 ml |
カロリー (Kcal) | 110 |
タンパク質 (g) | 10.5 |
脂質 (g) | 4.1 |
炭水化物 (g) | 7.8 |
その他 | アルギニン 2.4g、RNA 240mg |
その他の栄養補助食品についてはこちらをどうぞ。
まとめ
がん手術前からの栄養補助食品が、術後合併症を減らす可能性を示す研究結果を紹介しました。
プレハビリテーションの栄養サポートの一環として、栄養補助食品を利用してもいいと思います。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
最新記事 by 佐藤 典宏 (全て見る)
- 余命(予後)と関係する「がん再発」4つのパターン - 2023年1月23日
- 【がん薬物療法】分子標的薬 アダグラシブ:転移を認めるステージ4「大腸がん(KRAS G12C)」に奏効率46% - 2023年1月21日
- 便秘がちな人に増える意外な「がん」とは?慢性の便秘でリスクが増えるのは大腸がんではなく・・・ - 2023年1月19日