がん患者さんが、手術までの期間に、運動を中心とした術前の準備(プレハビリテーション)をすることで、術後早期に回復できたり、合併症の発生率が下がるといったメリットがあります。
では、術前のプレハビリテーションの期間はどのくらいの長さが理想的なのでしょうか?
長ければ長いほどいいのか?あるいは、短いほうがいいのか?
手術まで数日しか時間がない場合には、どうしたらよいのでしょうか?
今回は、がん患者さんにとって理想のプレハビリテーションの期間(日数)について解説します。
理想のプレハビリテーションの期間とは?
理想のプレハビリテーションの期間はどのくらいなのでしょうか?
実は、これについては、まだ明確なエビデンス(科学的根拠)はありません。
過去の報告をみると、プレハビリテーションの期間は研究ごとに異なり、1週間から8週間までと様々です。
もっとも短期間のものは、呼吸機能に障害がある肺がん患者を、有酸素運動と呼吸筋のトレーニングを組み合わせたプレハビリテーションを術前に1週間だけ行うグループと、行わないグループに分けて比較した研究です。
この研究では、プレハビリテーションを行ったグループでは術後の呼吸関連の合併症が11.8%であり、プレハビリテーションなしのグループの35.3%と比べるとおよそ三分の一まで低下していました。
プレハビリテーションの設定期間としてもっとも一般的なのは4週間です。
116人の手術予定の大腸がん患者を対象とし、4週間のプレハビリテーション(運動、栄養サポート、およびリラクゼーションのためのカウンセリング)を受けるグループ(57人)と受けないグループ(59人)にランダムに割り付け、手術時の身体能力を比較検討した臨床研究では、プレハビリテーションを受けた患者では、手術直前の身体活動レベルおよび歩行能力が有意に向上していたとのことです。
この結果より、「4週間のプレハビリテーションは大腸がん患者の運動習慣を変化させ、術前の機能的歩行能力を改善するのに十分である」と結論づけています。
したがって、必要とされるプレハビリテーションの期間は、患者さんの状態や受ける手術によって変わってきますが、1~4週間が理想的であると考えられます。
私の経験でも、たとえ1週間でも患者さんに真剣に取り組んでもらうと、外来での歩き方や表情など見た目が変わってくるのです。
手術までの待ち時間が長くなるとがんが進行する?
ここで気になるのは、手術までの待ち時間が長くなると、がんが進行してしまうのではないかという懸念です。
手術を受けることが決まった患者さんのなかには、「待っている間に、がんが広がったり転移したりするかもしれないので、一刻も早く手術で取り除いてほしい」と思う人もいるでしょう。
では、実際に手術が遅れると、その間にがんが進行してしまうのでしょうか?手術の遅れががんの治療成績(生存率)に影響をおよぼすといったエビデンスはあるのでしょうか?
じつは、がんの種類(臓器)によって違います。
手術までの待ち時間と生存率との関係を調査した多くの研究結果によると、一部のがん(乳がん、直腸がん、切除可能(比較的早期の)すい臓がん)では、診断(あるいは症状の出現)から手術までの期間が非常に長くなると(たとえば1ヶ月以上)、生存期間が短くなる可能性があります。
一方で、肺がん、食道がん、胃がん、結腸がんでは診断から手術までの遅れ(少なくとも1ヶ月程度の遅れ)と生存率との間に明らかな関連性はないという結果でした。
つまり、4週間(1ヶ月)程度であれば、手術までの待ち時間が長くなっても心配ない(生存期間に差はない)と考えられます。
この期間にプレハビリテーションを行うことで、術後の合併症を減らし、むしろ生存率を改善できる可能性もあるのです。
まとめ
必要とされるプレハビリテーションの期間は、患者さんの状態や受ける手術によって変わってきますが、1~4週間が理想的であると考えられます。
ただし、一部のがん(乳がん、直腸がん、切除可能(比較的早期の)すい臓がん)では、診断(あるいは症状の出現)から手術までの期間が非常に長くなると(たとえば1ヶ月以上)、生存期間が短くなる可能性がありますので注意が必要です。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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