慢性腎臓病(CKD)の人が増えており、新たな国民病の一つとも言われています。今回は、慢性腎臓病とがんのリスクとの関係についての研究を紹介します。
はじめに
このようなCMをみるようになりました。
「GFR値が59以下の人は、お医者さんにご相談を」ということで、これは、日本腎臓協会とアストラゼネカ株式会社による、慢性腎臓病を早期に発見しましょう、という主旨のCMです。
慢性腎臓病(CKD)とは?
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓が何らかの原因で障害され、血液をろ過する機能が落ちてしまう、あるいはタンパク尿が出るという、新たな国民病の一つとも言われています。
しかし慢性腎臓病は早期に治療介入することで重症化の抑制ができます。
慢性腎臓病は、その重症度に応じて、ステージ1からステージ5の5段階に分けられていますが、その指標となるのが、eGFR(推算糸球体濾過量)です。
これは、腎臓にどれくらい老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示した数値で、低いほど腎臓の働きが悪いということになります。
最近では、健康診断の腎機能の測定項目にも、このeGFRが採用されるようになりました。
一般的に、eGFRの正常値は「60ml/分/1.73㎡以上」です。ですから、59以下では、腎臓の機能が低下していることより、慢性腎臓病が疑われる、ということになります。
腎臓は老廃物を体の外に排出するだけでなく、血圧を調節したり、血液(赤血球)をつくる手助けをしたり、ビタミンDを活性化するなど、色々な役割を持っています。
ですから、腎臓の機能が悪くなると、色々な病気を発症しやすくなることがわかっています。
なかでも、慢性腎臓病があると、がんの発症リスクが高くなる、という研究があります。たとえば、血液透析を受けている患者さんにがんが多いことはよく知られています。
今回、海外からの研究を紹介して、慢性腎臓病とがんとの関係について解説します。
慢性腎臓病とがんとの関係
2022年の8月に、PLoS One という雑誌に報告された論文です。
アメリカの大学病院における、1万人以上の慢性腎臓病の患者さん(基準は、eGFRが60未満)の医療情報を20年以上にわたって追跡調査して、すべてのがんの発症率を調べました。
その結果、13,750人の慢性腎臓病と診断された患者さんのうち、観察期間中に2,758 (20%)ががんを発症していました。つまり、5人に1人ががんになっていたということで、明らかに多いですね。
がんの種類については、最も多かったのが、消化管のがんで、その他としては、前立腺がん、他の尿路系のがん、胸部のがん、乳がんなどが多かったとのことです。
がんの発症時期は、年齢は平均71歳で、慢性腎臓病と診断されてから8年半たってからでした。
というわけで、慢性腎臓病がある人では、がんのリスクが高くなるという結果でした。
もう一つ、研究を紹介しますが、2022年の6月に、Cancer Epidemiol Biomarkers Prev という雑誌に報告された論文です。
この研究では、メンデルのランダム化解析という、ゲノム情報を用いる研究手法によって、慢性腎臓病の指標である、eGFRとアルブミン尿と、19の部位のがんのリスクとの関係を調査しました。
その結果、慢性腎臓病があると、腎がん、白血病、子宮頸がん、そして、大腸がんのリスクが有意に高くなっていたということです。
まとめ
以上の結果より、慢性腎臓病の人は、がんのリスクが高くなるという研究結果でした。
ですから、慢性腎臓病の人、あるいは、腎機能が低下していることを指摘されたことがある人では、もちろん、腎臓の検査や治療を続ける必要がありますが、それに加えて、がんの検診も受けることをおすすめします。
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