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BRCA遺伝子変異でリスクが増える新たな3つの「がん」を同定:日本からの報告

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これまで、BRCA遺伝子に変異があると、リスクが高くなるがんとしては、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、そして、膵臓がんがわかっていたのですが、今回、日本からの研究によって、他にもリスクが高くなるがんがあることがわかりました。

はじめに

がんの原因のひとつに、遺伝があります。

これは、生まれながらの遺伝子異常(遺伝子変異)が直接的な原因ということです。

この遺伝子変異には、親から子に受け継がれて、生まれながらに持っている変異と、生まれてから歳をとっていく途中で発生する変異があります。

生まれながらの変異を「生殖細胞変異」、生まれてから獲得する変異を「体細胞変異」といいます。

生まれながらに持っている遺伝子変異の代表的なものが、BRCA遺伝子(ブラカ)です。

BRCA遺伝子には、BRCA1とBRCA2があります。どちらも、DNAを修復するタンパク質をつくります。

ですから、DNAに傷が入ったときに、BRCAが元通りに修繕してくれるという役目をはたしています。つまり、BRCA遺伝子は、がん化を防いでくれている重要な遺伝子であるといえます。

BRCAのがん抑制作用

人が生きていく上で、活性酸素など色々な原因で、細胞のDNAに傷(遺伝子変異)ができます。

このとき、BRCA遺伝子に変異がない、正常な細胞だと、遺伝子変異が修復されて、がんにはならないわけです。

一方で、BRCA遺伝子に変異があると、遺伝子変異がうまく修復されずに、蓄積していって、がん化してしまうわけです。

このBRCA遺伝子の変異を親が持っていると、子どもに、50%の確率で受け継がれることになります。これを常染色体優性遺伝といいます。

BRCAは、乳がん(あるいは卵巣癌)のリスクが高くなる遺伝子異常ということで、よく知られています。

アメリカの女優アンジェリーナジョリーさんが、BRCA1に遺伝子変異があることがわかって、予防のために両側乳房切除術と両側卵巣卵管摘出術を受けたということで話題になりました。

これまで、BRCA遺伝子に変異があると、リスクが高くなるがんとしては、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、そして、膵臓がんがわかっていたのですが、今回、日本からの研究によって、他にもリスクが高くなるがんがあることがわかりました。

BRCA変異によってリスクが増える新たながん

2022年4月にJAMA Oncologyという雑誌に報告された論文です。

国際共同研究グループは、乳がん、肺がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝がん、リンパ腫、膵臓がん、胆道がん、腎がん、前立腺がん、の14のがん種における10万人以上(患者群が約6万5千人、コントロール群が3万8千人)について、BRCA1/2遺伝子のゲノム解析を行ったということです。

まずBRCA遺伝子の病的バリアント(がんの発症と関係した遺伝子配列の違い)を調べて、がん腫別に保有率を調べました。

その結果、やはり、以前の報告と一致して、乳が(とくに男性の乳がん)、卵巣がん、膵臓がんで、多いことがわかりました。

とくに男性の乳がんでは18.9%の人がBRCA2遺伝子の病的バリアントを持つことがわかりました。

さらに、病的バリアントの保持率を、がんのない対照群と比較することで、どのがんになりやすいかの「疾患リスク」を計算で求めたところ、これまで報告のあった乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんの他に、今回あらたに、食道がん、胃がん、胆道がんの3つのがんのリスクが高くなることがわかりました

がんの種類別にみてみます。

85歳までに対象のがんになる累積リスクをグラフにしたものですが、まず、乳がんですが、BRCA1に変異があると、85歳までにがんを発症するリスクが72.5%、BRCA2だと58.3%でした。

卵巣がんでは、BRCA1に変異があると、発症するリスクは65.6%でした。

前立腺がんでは、BRCA2に変異があると、発症するリスクが24.5%でした。

膵臓がんでは、BRCA1の変異で16%、BRCA2だと13.7%でした。

そして、今回あらたに同定されたがんですが、食道がんでは、BRCA2の変異があると発症リスクが5.2%でした。

胃がんでは、BRCA1、BRCA2の変異ともに、発症リスクがおよそ20%でした。

胆道がんでは、BRCA1の変異があると発症リスクが11.2%でした。

この結果から、これまで分かっていた4つのがん種だけでなく、新たに同定した3つのがん種(食道がん、胃がん、胆道がん)についても、早期発見スクリーニングの実施や、PARP阻害剤の治療効果が期待できるという結論です。

BRCA遺伝子変異とPARP阻害剤

BRCA1あるいはBRCA2の変異は、がんの原因になりますが、逆に、BRCA1/2の変異がある患者さんは、がんの種類にかかわらず、PARP阻害剤という分子標的薬が効きやすいことがわかっています。

PARP阻害剤のうち代表的な薬はオラパリブ(商品名:リムパーザ)ですが、現在、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、そして、膵臓がんに保険適応となっています。

今後は、たとえば食道がん、胃がん、そして、胆道がんに対しても、BRCA遺伝子変異が陽性であれば、PARP阻害剤の効果が期待できるということで、治療の選択肢になる可能性があります

 

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  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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