がん患者さんのなかには、歩くスピードが遅くなる人がいます。では、歩くペース(速度)とがんとの関係はあるのでしょうか?研究結果を紹介します。
はじめに
がん患者さんの予後(生存期間)を左右する因子のひとつに、身体機能(簡単に言うと、体力)があります。
一般的に、体力(とくに筋力)があるがん患者さんは、体力がない患者さんに比べて、長生きすることがわかっています。
この身体機能を評価するときによく使われるのが、歩く速さや距離といった「歩行能力」です。
当然ですが、身体機能が高い人は、ふだんから歩くペースが速く、そして長い距離歩くことができますが、身体機能が低い人は、歩くペースが遅くて、歩ける距離も短くなります。
歩くスピードが遅くなるのは、筋肉が減っている1つのサインでもあります。信号が青の間に横断歩道を渡りきれなくなったら、筋肉やせ(サルコペニア)が疑われます。
私の経験でも、これまでいろいろながん患者さんをみてきましたが、外来で患者さんをお呼びしたときに、診察室に、早足で元気に入ってこられる患者さんは、長生きする傾向にあります。
では、歩く能力とがんの死亡率との間に関係はあるのでしょうか?
というわけで、今回は、歩行機能とがんの死亡率についての研究を紹介します。
歩行機能とがん死亡率
2021年に、Cancer Epidemiol Biomarkers Prev という雑誌に報告された論文です。
この研究では、アメリカの23万人以上の成人(このうち3万人が、がんと診断された人)を対象とした前向き観察研究です。
まず対象者の歩く速度を、自己報告で調査しました。ふだんの歩くペースを、slow(ゆっくり)、normal(普通)、そして、brisk(速い)、に分類しました。
そして、その後の長期にわたる死亡率との関係を解析しました。
当然、年齢などによって、歩くペースは変わってきますので、年齢、性別、人種、教育、BMI、自己報告の健康状態、運動、がんの治療などの因子で調整しました。
その結果、まず、がんと診断された人とがんのない人での比較では、がんと診断された人で、歩くペースがゆっくりの人が、40%多くなっていました。
さらに、がんサバイバーのうち、歩くペースが速い人に比べて、遅い人では、がんによる死亡リスクが2倍以上になっていました。
つまり、この結果からは、歩くペースによって、がん死亡リスクが倍も変わってくるということです。
ですから、がんになって、歩くのが遅くなってきたな、と感じる人は、要注意です。
がんになったら体を動かす!
最近報告された別の研究では、がんサバイバーのうち、活発に体を動かす人は、あまり体を動かさない人に比べて、およそ70%も死亡リスクが低いという結果でした。
というわけで、がん患者さんには、とにかく体を動かすことを習慣にして欲しいのですが、まずは、歩くことが基本です。
しっかりと歩くことで足の筋肉がついて、歩くペースも速くなってきます。
私の担当している、大腸がんを克服して何年も元気に過ごされている80代の患者さんは、毎日、1時間以上も散歩しているそうです。
まず、若々しくて、とても80代には見えないことと、ふくらはぎを触ると、足の筋肉がしっかりとしていて、びっくりします。
がんの症状や治療の副作用によって、歩くのが遅くなったり、歩くのが難しくなった人もいらっしゃると思います。また、転移の部位や全身の状態によっては、運動が制限されることもあります。
ただ、そういった制限がなければ、短い時間でもいいので、できるだけ歩くことを目標にしてもらいたいと思います。
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