がん転移・再発 緩和ケア

全身がんの医者の終活「逝きかた上手」から学ぶ3つのこと

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先日、前立腺がんでお亡くなりになった石蔵文信さん(医師)の著書『逝きかた上手』から、終活で大切なことを3つ紹介します。

はじめに

先日、医師で大阪大学招へい教授の石蔵文信(いしくら・ふみのぶ)さんが10月3日、前立腺がんのため、大阪府内の自宅で亡くなったというニュースが流れました。

66歳だったということです。

石蔵さんは64歳のときに、体調不良をきっかけに、前立腺がんが全身の骨に転移していることがわかりました。

高リスク群ということで手術は不可能で、治療はホルモン療法しかない状況でした。

ただ、前立腺がんは、比較的予後が良いがんで、数年は生きられる可能性が高いということで、終活の準備を始めたそうです。

全身がんの石蔵さんの終活

石蔵さんは、いわゆる「全身がん(全身がんという言葉は医学用語にはないのですが、表記のまま使っています)」の宣告を受けて、どういうことを考え、「終活」として何をしたかをつぶさに書き記した本「逝きかた上手」を出版されています。

 

医師とがん患者という両者の立場を経験した石蔵さんの「終活」から学ぶべきことがたくさんあるのですが、このうち3つを紹介したいと思います。

1.終活だけでなく、新しい趣味を始めてみる

石蔵さんは、前立腺がんが見つかって、全身の骨に転移していることがわかった時点で、大好きだったテニスをあきらめないといけないと思ったそうです。

すると、主治医からは、前立腺がんの場合は、骨を破壊することが少ない転移なので、大いに運動してくださいと言われたそうです。

そこで、テニスのレッスンをひとつ増やして、週3~4回はテニスをするようになったそうです。

さらに、テニス以外にも、1年ほど前からゴルフを始めたそうで、スコアの目標を立てたそうです。

石蔵さんは、「がんになって落ち込んでばかりでは免疫力が下がるでしょうから、なるべく楽しいことを積極的に続けていくことが大切です。運動が難しい人もいると思いますが、模型作りや釣り、園芸、旅行など楽しいことを考えてみてはどうでしょうか?」と述べています。

というわけで、がんになってから新しい趣味を始めてみる、というお話でした。

2.新しい薬も、前向きに試してみる

石蔵さんは、当初はしばらくの間、ホルモン療法が効いていたということですが、前立腺がんの指標である腫瘍マーカーのPSAが徐々に高くなってきたそうです。そこで、もっと強力な第2の薬を使うことになったのですが、副作用が強くて、ほぼ寝たきりの状態となったということです。がんの痛みも強くなって「もう長くは生きられない」と覚悟したそうです。

そんなときに、以前受けていたがんの遺伝子検査の結果が戻ってきて、BRCA2という遺伝子に変異があることがわかったので、この遺伝子があるがんに有効な分子標的薬を服用することになりました。

すると、痛みがとれ、体調が良くなってきたそうです。少しずつですが、テニスやゴルフも再開されたということです。もちろん、それで治るというわけではないのですが、少しでも

最近は、新しい薬が開発され、また、がんゲノム医療が普及して、がんに対する治療の選択肢が増えてきました。もちろん、遺伝子検査を受けても、石蔵さんのように治療薬が見つかるとは限りません。

ただ、可能性がある治療は前向きに試してみる価値があるということを述べておられます。

3.最期の医療を今から考えておく

たとえ余命宣告を受けたとしても、実際にがんで亡くなる時期や、どのような経過をたどるかはわかりません。

ですから、いつ状態が悪化してもいいように、意識がはっきりとしている時期から、最期の医療をどうするかを考えておくべき、と述べています。

これは、例えば、どこで最期を迎えるかということ(病院か自宅か)、食べられなくなったらどうするか(胃瘻を作るかどうか、点滴や栄養補給を続けるかどうか)、もし意識不明で病院に運ばれた場合には延命治療や心肺蘇生を受けるかどうか、といったことです。

こういったことは、話しにくい話題ですが、家族に自分の意思をしっかり伝えておくことや、書面に明記しておくことが重要であると述べています。

また、石蔵さんは、いつどこで倒れるかは誰にもわからないので、「延命治療不要」の固い意志を持つ人(とくに一人暮らしの高齢者)は、胸に蘇生拒否の入れ墨をしたらどうかと提案してきたそうです。

この方法がいいかどうかはわかりませんが、いずれにしても、最期のときの自分の希望や選択、つまり理想の「逝きかた」をまわりに伝えておくことは大切だと思います

まとめ

というわけで、石蔵先生の本「逝きかた上手」に学ぶ3つのことでした。

ただ、「がん患者さんの生き方(あるいは、逝き方)に関しては、個人の考え方もさまざまで、正解はない」と石蔵さんが述べているように、何が正しくて何が正しくない、ということはありません。

皆さんの考えや価値観を大切にする自分らしい「逝きかた」の参考になればいいと思います

 

#がん終活 #全身がん #骨転移 #前立腺癌 #医師

  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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