がん患者さんにとってプレハビリテーションのメリットは、合併症リスクが減ることや入院日数が短縮することなどが主なものですが、驚くべきことに、プレハビリテーションを行うことで、生存期間が長くなるという研究結果も報告されています。
今回は、プレハビリテーションとがん生存率との関係を調査した研究を紹介します。
プレハビリテーションによってがん患者の生存期間が延長?
大腸がん患者を対象とした過去の3つの研究をまとめ、手術を受けた202人の大腸がん患者(ステージI~III)を、プレハビリテーションあり群(104人)とプレハビリテーションなし群(98人)に分け、無再発生存期間および全生存期間を比較しました。
Improved Disease-free Survival After Prehabilitation for Colorectal Cancer Surgery. Ann Surg. 2019 Sep;270(3):493-501. doi: 10.1097/SLA.0000000000003465.
プレハビリテーションは、運動(有酸素運動+レジスタンス運動)に栄養サポートと精神的ケアを加えたものを、術前およそ30日間(20~40日)にわたって実施しました。
その結果、全体の患者ではプレハビリテーションと生存率との間に関係はみられなかったものの、ステージIIIの大腸がん患者に限定した解析では、プレハビリテーションあり群の5年無再発生存率(73.4%)はプレハビリテーションなし群(50.9%)に比べて有意に高いという結果でした(P = 0.045)。
プレハビリテーションによって、一部の(より進行した)大腸がん患者の生存期間が延長することが示されました。
術前の短期間のプレハビリテーションによって生存期間が延長した理由については明らかではありませんが、プレハビリテーションを実践した患者さんが、術後も定期的な運動や栄養を改善する食事などを生活習慣に取り入れた可能性を指摘しています。
実際に、術前から運動などのプログラムをはじめた患者さんは、術後も運動を続けることが多いというデータがあります。
もちろん、より大規模な臨床試験での検証が必要ですが、プレハビリテーションは術後の合併症を予防して回復を促進するだけでなく、長期的ながんの予後(治療の経過)を改善する可能性があります。
がんを克服するため、あるいは長生きするためにも、プレハビリテーションをぜひ取り入れて欲しいと思います。
まとめ
プレハビリテーションとがん生存率との関係を調査した研究によると、一部の大腸がん患者ではプレハビリテーションによって生存期間が延長するというデータがあります。
今後、さらにプレハビリテーションの長期的な効果について明らかになってくると思います。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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