肺がんの最大の原因は喫煙ですが、たばこを吸わない人にも発症します。女性では、非喫煙者の割合が多く、「腺がん」というタイプが多いという特徴がありますが、リスクを高める要因がわかっていません。今回、女性特有の因子(〇〇年齢)と肺がんとの関係についての研究を紹介します。
はじめに
今回は、女性の肺がんのリスクを左右する「ある年齢」というお話です。
先日の動画で、日本におけるがんの罹患者数が増加傾向であることをお話しましたが、なかでも、肺がんは男女ともに増加の一途をたどっています。
肺がんの原因、あるいは肺がんのリスクを高める因子は複数ありますが、よく知られているのは「喫煙」です。
たばこを吸う人が肺がんになるリスクは、吸わない人に比べて男性で4.8倍、女性で3.9倍と高くなるという研究結果があります。
ただ、ご存じのように、非喫煙者(たばこを吸わない人)でも、肺がんを発症することがあります。とくに女性の場合は、たばこを吸わない人にも肺がんが増えています。
女性に増えている肺がんとは?
一般的に、女性にみられる肺がんの特徴として、非喫煙者の割合が多いこと、「腺がん」という組織のタイプの肺がん(肺腺がん)が多いことなどがあります。
女性の肺がんの場合は、男性と違って、女性特有の因子、例えば、月経や妊娠・出産・授乳(それに伴う女性ホルモンの変化)が関与しているのではないかと考えられています。
今回は、女性の肺がんと、そういった女性関連因子との関係についての研究結果を紹介します。
女性関連因子と肺腺がんとの関係
昨年2021年に、Cancer Epidemiol Biomarkers Prev という雑誌に報告された論文で、日本における多目的コホート研究と呼ばれる大規模な観察研究です。
日本全国の様々な地域に住んでいる、40~69歳のたばこを吸ったことがない女性約4万2千人を対象として、初経や閉経など女性関連因子と、21年間にわたる肺がんの発症率との関係を調査しました。
その結果、閉経の年齢が遅い(51歳以上)女性では、早い(47歳以下)女性に比べて、肺腺がんのリスクが41%も高くなっていました。
つまり、閉経年齢が高くなるにしたがって、肺腺がんになりやすくなるということです。
また、初経から閉経までの期間が長い(36年以上)女性では、短い(32年以下)女性に比べて、肺腺がんのリスクが48%高くなっていました。
つまり、月経がある期間が長いほど、肺腺がんになりやすくなるということです。
一方で、授乳の経験がある女性は、授乳の経験がない女性に比べて、腺がん以外の肺がんになるリスクが、およそ半分に減っていたとのことです。
以上の結果より、たばこを吸わない日本人女性の肺腺がんに関しては、閉経年齢および初経から閉経までの期間が、リスクを左右する因子であることがわかりました。
この背景には、じつは、正常の肺や肺がんの組織には、女性ホルモンであるエストロゲンが結合するエストロゲン受容体があって、エストロゲンによって肺がん細胞の増殖が促進されることがわかっています。
つまり、女性の肺がんの一部は、エストロゲンによって発生あるいは進行する可能性があります。
ですから、ホルモン依存性の乳がんと同様に、女性ホルモンに曝露される期間が増えるほど、肺がんのリスクも増えることが予想されますので、こういった女性特有のリスク要因があることも知っておくべきだと思います。
というわけで、今回は、今回は、女性の肺腺がんのリスクを左右する「閉経年齢」、「初経から閉経までの期間」というお話でした。
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