最新の研究によって、ある有名な薬を飲んでいる人は、がんの診断時に悪液質のリスクが減っていた、ということがわかりました。それは、皆さんも飲むことがあると思いますが、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID:エヌセイド)です。
はじめに
がん患者さんの生存期間を左右する重要な因子のひとつに、「がん悪液質」あるいは「カヘキシア」と呼ばれる状態があります。
「がん悪液質」とは、「BMIが20以上の患者さんで、過去6ヵ月間の体重減少>5%」など、色々とあるのですが、簡単に言うと、筋肉や脂肪が急激に失われて、体重が減ってしまう、いわゆる「激やせ」のことです。
芸能人のかたが「がん」を告白して、急にすごくやせた姿で会見をされて、その後、まもなく亡くなったというニュースをみたこともあると思います。
それだけ、がん患者さんにこの悪液質が出現すると、急速に予後が悪化することがあるわけです。
これを裏付けるように、実際の臨床研究でも、このがん悪液質があると、生存率がいちじるしく低下することがわかっています。
これは、胃がんや大腸がんなど、消化管のがん患者さんの生存曲線ですが、治療前に悪液質があった患者さんは、悪液質がなかった患者さんに比べて、生存期間がとても短くなっていました。
ですから、できるだけ、この悪液質を防いだり、進行を遅らせることが重要になってきます。
そのためには、まず、がん悪液質のメカニズムを知ることですが、悪液質の最大の特徴は、「全身性の炎症」を伴うことです。
つまり、がんと周りの組織との反応によって、全身に炎症がおこることで、炎症性サイトカインという物質が血液のなかに増えて、それによって、筋肉や脂肪組織がやせおとろえていくと考えられています。
ですので、この炎症を抑えることで、悪液質が予防できるのではないか?という説があります。
がん悪液質のリスクを低下させるNSAIDs(消炎鎮痛剤)
最新の研究によって、ある有名な薬を飲んでいる人は、がんの診断時に悪液質のリスクが減っていた、ということがわかりました。
それは、みなさんも普段、飲むことがあると思いますが、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID:エヌセイド)です。
今年の6月に Fronties in Oncology という雑誌に報告された論文です。
肺がんまたは消化管のがん患者さん3180人について、過去の薬の内服歴などをくわしく調査して、その薬の種類と、がんが診断された時点での悪液質の有無との関係を調べました。
その結果、がんの診断前に3ヶ月以上にわたって、毎日、NSAIDを服用していた患者さんでは、悪液質の割合が20%以上も減っていました。
さらに、NSAIDを服用していた患者さんでは、服用していなかった患者さんに比べて、がんになった後でも、悪液質になるまでの期間が長くなっていた(つまり、すぐには体重が減らなかった)ということです。
ちなみに、NSAIDの種類に関しては、アスピリン、非選択的NSAIDと呼ばれるインドメタシン、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、アセトアミノフェン、選択的NSAIDと呼ばれるセレコキシブなど、色々ありますが、どれでも同じくらいのリスク低下だったとのことです。
その他に、グルココルチコイド(ステロイド)を内服していた患者さんも、がん診断時の悪液質が少なかったとのことです。
この研究の結果から、消炎鎮痛剤(NSAID)は、がん診断後の早期から服用することで、悪液質を防いだり、進行を遅らせることができるかもしれないということです。
実際に、海外では、進行がんで悪液質を認める患者さんに、NSAIDを投与するMENAC(メナク)試験という第三相臨床試験が進行中です。
これは、運動と栄養サポート、そして、消炎鎮痛剤(イブプロフェン:イブという薬がありますね)の投与を組み合わせる集学的な治療を行って、通常のケアを受けたグループと体重の変化などを比較する試験です。
今年の9月に試験が終了するとのことですので、結果を待ちたいと思います。
また、日本がんサポーティブケア学会が監修した「がん悪液質ハンドブック」でも、将来のがん悪液質治療として、薬物療法のひとつにNSAID(消炎鎮痛剤)が候補として記載されています。
注意点
ただし、注意して欲しいのは、まだ、消炎鎮痛剤が、悪液質の予防や治療として確立されたものではないということです。
NSAIDには、消化性潰瘍などの副作用もあります。ですので、個々の患者さんにおいて、メリットとデメリットのバランスを考えないといけません。
いずれにしても、がん悪液質(激やせ)を防ぐひとつの手段として、消炎鎮痛剤、あるいは、他の炎症を抑える薬の効果が期待されます。
というわけで、がん激やせのリスクが減るあの有名な薬、というお話でした。
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