「ストレスとがんは関係あるのか?」という議論は以前からありますが、はたしてどうなのでしょうか?今回は、これまでの研究からわかった「ストレスががんを進行させるメカニズム」と、それを防ぐ方法について解説します。
はじめに
がん患者さんに限らず、人は、多かれ少なかれストレスを抱えて生活しているわけですが、はたして、このストレスはがんにとっていいことなのか、悪いことなのか、どちらでしょうか?
ストレスとがんは関係あるのか?という議論は以前からあって、ストレスでがんになったり、がんが進行するという説と、懐疑的な見解(関係ない、あるいは、関係あるかもしれないけど証明されていないという意見)があります。
実際には、仕事や家庭のストレスを強く感じている人が、がんになったり、がんが急に進行するということを耳にすることがありますので、たしかに、関係がありそうだと感じます。
では、ストレスががんを進行させるという科学的根拠(エビデンス)はあるのでしょうか?
極端な話、人にストレスを与えるグループと与えないグループに分けて長期にわたってがんのリスクを比較するランダム化比較試験は、計画すること自体が難しいので、ストレスとがんとの関係を人で証明することは難しい(というか不可能)です。
一方で、細胞や動物実験、一部の臨床研究によって、慢性的なストレスが、がんの発生や進行に関与していることを示す証拠が徐々にあつまってきました。
というわけで、今回は、ストレスでがんが進行するメカニズムと、それを防ぐ手段についてお話したいと思います。
ストレスによるがん進行
ストレスによってなぜがんが進行するのでしょうか?
理論的には、そのメカニズムは、おもに3つあります。
ひとつは、ストレスによって体のなかに増えるホルモンのがん促進作用です。ふたつめは、ストレスによる炎症(慢性炎症)の悪化です。そして、3つめは、ストレスによる免疫機能の低下です。
こういった因子がからみあって、がんが進行することがあるわけです。
このうち、とくに重要で、研究がすすんでいるのが、ホルモンの影響です。
まずは、ストレスによってからだのなかに増えるホルモンががんに与える影響についてです。
ストレスがかかると、2つの経路で、ホルモンが分泌されます。
ひとつは、脳の視床下部から下垂体を介して副腎皮質から分泌されるコルチゾールです。
もう一つは、視床下部から交感神経を経由して副腎髄質から分泌されるアドレナリン(エピネフリンともいいます)です。
じつは、がん細胞の表面には、こういったストレスによって分泌されるホルモンが結合する受容体(カギ穴)があって、ホルモンが結合すると、がん細胞が活発に動いて転移しやすくなることが実験で証明されています。
アドレナリンを加えると、乳がんの浸潤する能力が亢進されます。
つまり、アドレナリンによってがん細胞が活性化されて、まわりに広がったり、転移が促進されることがわかります。
これ以外にも、アドレナリンの血液中の濃度が高いがん患者さんは、生存期間が短くなるというデータもあります。
つまり、慢性的にストレスを受け続けることで、ストレスホルモンが増えて、がんが進行する可能性が高くなります。
ストレスによるがん進行を防ぐ方法
では、このようなストレスによるがん進行を防ぐ方法はあるのでしょうか?
実際にはストレスが全くない人はいないと思いますので、完全に防ぐことは難しいと思います。
ただ、少しでもリスクを減らすために、できることはあります。
まずは、メンタルケアです。
最近では、がん治療におけるメンタルケアの重要性が高まっています。
日常生活のポイントとしては、慢性的にストレスがかかることを避けることです。
具体的には、
- がんについて、あまり長い時間、悩まない・心配し過ぎない
- できるだけリラックスして、緊張する場面を減らす(緊張するとアドレナリンが分泌されます)
- 「怒り」より「感謝」の気持ちをもつ(怒りによってアドレナリンが分泌されます)
- 睡眠時間をしっかりとる(睡眠不足になると、アドレナリンの分泌が増えます)
- 瞑想やヨガを取り入れる:とくにマインドフルネス瞑想瞑想によってがん患者さんのストレスが軽くなることが臨床試験でも証明されています。
こういったこころがけで、ある程度、ストレスホルモンの分泌をおさえることができると考えられます。
ただし、こういったセルフケアではストレスが手に負えないと感じる場合には、専門家によるカウンセリングを含めた心理療法を受けることも重要です。
まずは、主治医に相談してみてください。それでも取り合ってもらえない場合には、自分で心療内科のクリニックなどを受診するのもひとつの手だと思います。
ストレスによるがん進行を抑える治療法?
もう一つの方法としては、アドレナリンががんの進行につながる経路を遮断する薬を使う方法です。
これは、高血圧などの治療薬として知られているβブロッカーという薬です。
実際に、このβブロッカーにはがんを抑える作用が確認されていて、過去の研究では、このβブロッカーを日常的に内服している人は、がんによる死亡リスクが低かったという報告があります。
このβブロッカーを通常のがん治療に併用する臨床試験が行われていますが、まだがんに対して確立された治療法ではありませんので、積極的にすすめるものではありません。
ただ、長年、高血圧などの治療薬として使用されていて安全性が高いことや、いくつかの臨床試験では期待できる結果が報告されていることを、参考までにお伝えしておきます。
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