がんの自然退縮(あるいは自然寛解)とは、通常の治療を受けずにがんが自然に小さくなったり、消失することです。今回は、新型コロナウイルスのワクチン(モデルナ)接種後に、がんが自然退縮したという海外からの症例報告(医学論文)を紹介します。
はじめに
がんの自然退縮(あるいは自然寛解)とは、がんが、通常の治療を受けずに自然に小さくなったり、消失することです。
その頻度については正確な数字はありませんが、非常にまれであることは確かです。とはいえ、実際には、世界中から多数報告されています。
がんが自然退縮する原因については、色々な説がありますが、もっとも有力なものは、感染あるいは炎症による免疫系の活性化です。
実際に、高い熱が出た後にがんが自然に消失したり、がんが自然退縮した患者さんの病変には、たくさんの免疫細胞が集まっていることが確認されています。
前回、新型コロナウイルスに感染して、転移がんが自然に退縮したという症例を2例紹介しました。
そして今回は、新型コロナウイルスのワクチン(モデルナ)接種後に、がんが自然寛解したという症例報告がありましたので、紹介します。
コロナワクチン接種後にがんが自然退縮した1例
今年2022年3月に、Journal of ImmunoTherapy of Cancer という雑誌に報告された論文です。
患者さんは61歳の女性で、2020年の3月に、左耳下腺のmyoepithelial carcinoma(筋上皮癌)という、比較的まれながんと診断されました。
治療として、手術(左耳下腺切除)と、術後に放射線治療(60Gy)が行われました。
ところが、その後、肺に影がみつかって、生検の結果、筋上皮癌の転移であることが確認されました。
希少がんであり、標準治療がないため、経過観察の方針としました。ただ、治療していないこともあって、肺の転移は徐々に大きくなっていきました。
その後、2021年の1月に、COVID-19 ワクチン(モデルナ ワクチン)の1回目の接種を受けました。このときは副反応は軽く、接種部のかるい痛みとだるさ程度でした。
翌月、2021年の2月にCTを撮影したところ、治療していないこともあって、肺の転移はかなり大きくなっていました。
そこで、なんらかの治療が必要ということで、臨床試験(治験)に登録して、研究段階の全身療法を試してみようという方針になりました。
治療が開始される前に、患者さんは、2回目のモデルナワクチン接種をうけました。
この2回目のワクチンの副反応は1回目よりも重度であったということで、38.3℃の発熱があり、その後も、倦怠感、筋肉痛、脱力感、頭痛などがおよそ1週間続いたとのことです。
おどろくべきことに、2回目の接種から1ヶ月後のCTでは、肺の転移が13%縮小していました。
CTの翌日から、治験を開始する予定だったのですが、小さくなっているということで、一旦中止になり、その後も経過をみる方針になりました。
その後も、接種後3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月にCTで確認したところ、肺の転移はどんどん小さくなっていって、9ヶ月後には画像上73%も縮小していました。
この経過から、著者らは、コロナワクチンによる全身の炎症反応によって、免疫系が活性化され、その結果、がんが自然退縮した可能性があると結論づけました。
さらに、ワクチン接種前とワクチン接種後に、肺の転移がんを採取して、顕微鏡検査で比較したところ、腫瘍内の免疫細胞(とくに、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞)の割合が大きく増えていることがわかったとのことです。
つまり、がんを攻撃する免疫細胞が、ワクチン接種をきっかけに、肺のがんにたくさんあつまっていたということです。
というわけで、この症例では、新型コロナワクチンの接種が、がんに対する免疫反応を刺激して、がんが自然退縮したということが推察されました。
まとめ
少し驚く報告ではありますが、きっかけはともかく、炎症による免疫の活性化が、がんの縮小につながるという可能性は、じゅうぶん考えられます。
まだ1例の症例報告ということですので、もちろん、一般的な現象とは言えませんが、今後もしかしたら同じような症例や、まとまった報告がでるかもしれません。
というわけで、今回は、コロナワクチン接種後にがんが自然退縮した1例を紹介しました。
#COVID-19 #ワクチン #癌治療 #自然治癒 #副反応 #免疫力 #癌免疫 #症例報告 #モデルナ #筋上皮癌
最新記事 by 佐藤 典宏 (全て見る)
- 余命(予後)と関係する「がん再発」4つのパターン - 2023年1月23日
- 【がん薬物療法】分子標的薬 アダグラシブ:転移を認めるステージ4「大腸がん(KRAS G12C)」に奏効率46% - 2023年1月21日
- 便秘がちな人に増える意外な「がん」とは?慢性の便秘でリスクが増えるのは大腸がんではなく・・・ - 2023年1月19日