ある「手術」によって、将来的にがんで死亡するリスクが半減するという研究結果が報告されました。いったい、どんな手術なのでしょうか?というわけで、今回は、この研究を紹介したいと思います。
はじめに
最近、外科医をふくめ一部の医療者の間でちょっと話題になったのですが、ある手術によって、将来的にがんで死亡するリスクが半減するという研究結果が報告されました。
がんのリスクを減らす手術とは、いったい、どんな手術なのでしょうか?
というわけで、今回は、この研究を紹介したいと思います。
今年の6月にJAMAという医学雑誌に報告された論文です。
これは、病的な肥満の患者さんを対象とした肥満手術(減量手術)と肥満関連のがんのリスクを検討した、後ろ向きマッチドコホート研究です。
解析対象は、BMI 35以上のアメリカ人の肥満患者さん合計3万318例です。
2004年から2017年までに肥満手術を受けた患者さん(およそ5千人)と非外科的治療を受けた患者さん(およそ2万5千人)を2021年2月までフォローアップして、観察期間中の肥満関連のがんの発症および死亡率を比較しまいた。
ちなみに、肥満手術とは、おもに、ルーワイ胃バイパス術やスリーブ状胃切除術でした。
肥満手術・減量手術と聞くと、あまりなじみがないと思いますが、じつは、サッカー選手だったマラドーナさんや、もと大関の小錦(KONISHIKI)さん、さらに、歌手のマライア・キャリーさんも、減量手術を受けています。
この研究では、肥満関連のがんとは、食道腺がん、腎細胞がん、結腸がん、直腸がん、膵がん、卵巣がん、子宮内膜がんを含む13種としました。
まず体重に関しては、10年後の平均体重は、肥満手術群で有意に低かったとのことで、グループ間の体重差はおよそ25kgだったとのことです。
経過中に、肥満手術群の96人と非手術群の780人に肥満関連のがんが発生しました。
結果ですが、10年間でのがんの累積発生率は、肥満手術群で2.9%、非手術群では4.9%で、肥満手術群で発症リスクが32%低下していました。
また、がんによる死亡リスクは、非手術群に比べて、肥満手術群における死亡リスクは48%も低下していました。
以上の結果より、肥満の成人に対する肥満手術は、非外科的治療に比較して、肥満関連のがんの発生率ならびに死亡率が有意に低かったという結論です。
とくに、がんによる死亡リスクは半減していたということです。
というわけで、がんの死亡リスクを半減する手術とは、「肥満外科手術」でした。
まとめ
これまでの研究では、肥満手術によって、糖尿病などのリスクが減ることはわかっていましたが、長期的には、がんのリスクも低下することがはじめて示されたわけです。
ですから、肥満がある人でも、減量することで、がんで死亡するリスクが減ることがわかりました。
「肥満関連のがん」と言っても、ピンとこない人がほとんどだと思います。
ただ、ある海外からの報告によると、すべてのがんの原因のうち、35%は肥満とも関連していたとのことで、今後、世界的にみても、たばこに匹敵するがんの原因になる可能性が指摘されています。
また、日本でも、大腸がん、閉経後の乳がん、子宮体がん、膵臓がんなど、肥満関連のがんは増加しています。
もちろん、日本では手術が必要になるまでの病的な肥満の人は少ないのですが、日頃の食事や運動の習慣によって、肥満を防いだり、あるいは、病的な肥満の場合、手術による治療を選択することは、がんのリスクを減らすうえで重要であることを示すデータでもあります。
というわけで、がん死亡リスクを半減させる「ある手術」というお話でした。
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