運動する人ではがんになりにくいことがわかっていますが、転移との関係は不明でした。今回、運動する人では、がんの転移が少ないという新事実と、なぜ運動で転移が減るのか、というメカニズムについての新しい研究結果を紹介します。
はじめに
運動をすることで、がんの予防やがんの治療効果が高まるという観察研究があります。
ただ、なぜ、運動ががんを抑えるのか、という理由については、まだよく分かっていません。
今回、運動する人では、がんの転移が少ないという新事実と、なぜ、運動で転移が減るのか、というメカニズムについての新しい研究結果を紹介します。
運動でがん転移が減る?
Cancer Res という雑誌に新たに報告された論文です。
まず、人での観察研究を調べて、運動する人で見つかるがんの特徴を明らかにしました。
SEERというアメリカのデータベースから、がんと診断されたことのない約2700人を対象として、ふだんの運動の強さと時間と、20年以上にわたる観察期間中に発症したがんの特徴との関係を調べました。
その結果、運動をする人では、男女ともに、がんの発症リスクが低下していました。
なかでも、早期のがんよりも、転移のある進行がんは運動によって大幅に減っていたということで、しっかりと運動をする人では、しない人に比べて、転移を認めるがんのリスクが73%も減っていました。
つまり、運動する人では、早期のがんのリスクはあまり低下しないということですが、転移がんはかなり減るということです。
ではなぜ、運動によってがんの転移が減るのでしょうか?
これを明らかにするために、動物実験を行いました。
まずは、マウスに8週間運動をさせて、その後、皮膚がんを移植しました。
その結果、運動をさせたマウスでは、肺への転移が減っていました。
つぎに、運動させたマウスの転移先の臓器(リンパ節、肺、肝臓)を採取して、タンパク質の発現や、代謝経路などを調べました。
その結果、運動させたマウスの臓器では、グルコースの取り込み、ミトコンドリアの活性など、エネルギー代謝が変わっていて、がんに栄養を与えない環境を作っていました。
ごく簡単に言うと、運動によって、各臓器のエネルギー代謝が高まり、転移してきたがん細胞(よそ者)に対して栄養の供給を断つということです。
というわけで、運動によって、全身の臓器が、がんが育ちにくい環境をつくることができ、それによって、転移が減る、という新しいメカニズムが明らかになったわけです。
やはり、運動は、進行がんの予防や、がんの再発・転移を防ぐために、とても大事であることが再確認できる研究結果でした。
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