今日は皆さんに、私が担当した患者さん(Aさん)のお話をさせていただきます。これは、「奇跡」という言葉で片付けることはできない事実です。
膵臓がんが再発した人
Aさんは60歳代の女性で、すい臓がん(当時のステージIII)の患者さんです。
診断がついたときには、後腹膜(背中側の腹膜)に広がる進行がんでしたが、なんとか手術で切除できました。
こういった患者さんは、再発のリスクが高いのですが、しばらくは再発なく順調に経過していました。
ところが、手術から2年経過したところで、それまで正常だった腫瘍マーカー(CA19-9とCEAの両方)の上昇がみられました。
CT検査を行ったところ、手術でがんを切除した部位に再発とみられる影が発見され、局所再発と診断されました。
再発に対して抗がん剤治療を試みましたが、腫瘍マーカーはさらに上昇し、再発したがんの影は大きくなっていました。これ以上の効果が期待できないため、治療は中止となりました。
すい臓がんが再発した場合、Aさんのように治療が効かないことが多く、このままだと「余命半年~もって1年」という状態まで追い込まれました。
Aさんがやったこと
ところが、Aさんはあきらめていませんでした。
がんの再発をきっかけに、食事と運動を中心に生活習慣を大きく改善しました。
がんになる以前は、食事には無関心だったそうですが、がんと診断されてから、雑穀米、野菜を中心とした具沢山味噌汁、ヨーグルト、黒酢、海藻など、体によいとされる食品を摂りつづけていました。また、散歩や筋トレも始めており、がんの再発がわかってからも継続していました。
すると、不思議なことに、治療をしていないにもかかわらず、ある時期から再発したがんの進行がストップしました。
それどころか、徐々にがんの影が小さくなり、腫瘍マーカーも低下しはじめたのです。
Aさんは、がんが小さくなっていることを喜び、「がん再発に負けない」生活を信じて続ける決意をしました。そして、気がつけば、手術してから5年、再発してから3年も経っていました。
Aさんは、今でも笑顔で外来に通ってこられ、日々の食事や運動の内容についてお話してくれます。
再発しても、患者さんにできることがある
このAさんの経験をつうじて、わたしの「がん再発」に対する考え方、そして患者さんへの関わり方は大きく変わりました。
がんに立ち向かうためには、ときに最善の医療を提供するだけでは足りない場合があります。
当然、最新のエビデンス(科学的根拠)に基づいた標準治療を行うことは大切ですが、それに加えて、やらなければならない重要なことがあります。
それは、患者さんのメンタルや生活も含めた全人的なケアであり、患者さん自身によるセルフケアを応援することです。
病気を克服するためには、人間にそなわった自然治癒力を信じて、高める努力をすることが必要です。
非科学的に聞こえるかもしれませんが、これは医療の原点のような気がします。
現在では「手術や薬、放射線など病院での治療が患者さんのがんを治す」という考え方があたりまえになっています。
しかし、今のような医療手段が無かった昔は、祈祷と呪(まじな)いなどによって「患者さん自身の治る力を最大限に高める」ことが医療だったわけです。
がんの治療では、必ずしも期待する結果が得られるとは限りません。たとえベストの治療を選択したとしても、残念ながら再発することもあります。
がん再発をあきらめない!
ただ、がんの再発は決して「死の宣告」ではありません。
近年の医療の進歩にともない、再発したがんに対する治療の選択肢も増えてきました。
再発したがんでも、場合によっては根治(完全にがんが治ること)を目指すことができます。
やれることはたくさんあります。
たとえ治らないとしても、セルフケアを続けることで、がんと付き合いながら長生きすることも可能となってきました。
ですから、希望を捨てないで欲しいのです。
それが、Aさんをみてきた私からのメッセージです。
#がん再発 #膵がん #余命半年 #末期 #ステージ4 #がん縮小
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