がんの原因

【なぜ?】「がん」になりやすい臓器、なりにくい臓器

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がんは、全身のどこにでも発生しますが、できやすい臓器、できにくい臓器があります。今回は、がんが多い臓器・少ない臓器と、なぜ臓器によって「がんになりやすさ」が違うのか?について解説します。

はじめに

がんは、全身のどこにでも発生しますが、ご存じのように、できやすい臓器、できにくい臓器があります。

今回は、がんができやすい臓器はどこで、できにくい臓器はどこか、ということと、そして、なぜ臓器によって「がんのできやすさ」が違うのか、というお話です。

がんができやすい臓器

まずは、がんができやすい臓器についてです。

日本人の2019年の部位別の罹患者数のデータですが、
男性では前立腺、大腸、胃、肺、肝臓の5つで全体の67%、
女性は乳房、大腸、肺、胃、子宮がんが全体の64%を占めています。

つまり、男女ともに、大腸、胃、肺、また男性では前立腺、女性では乳房が、がんができやすい臓器であるといえます。

がんができにくい臓器

一方で、がんになりにくい臓器とはどこでしょうか?

まずは、心臓です。

がん(腫瘍)の臓器ごとの発生頻度を調べたときに、心臓から発生する頻度は0.1%以下と報告されていて、非常にまれです。

また、心臓にできる腫瘍のうち約70%は良性腫瘍で、悪性腫瘍は約30%と言われています。

ですから、心臓にできるがん(悪性腫瘍)は非常に少ないということです。

あとは、年間の発生率が10万人当たり6人未満で、患者数が極めて少ないがんのことを「希少がん」といいますが、この希少がんには、悪性脳腫瘍や眼腫瘍(目の腫瘍)なども含まれています。

ですから、脳や眼も、がんができにくい臓器であるといえます。

もちろんゼロではありませんが、こういった臓器にがんが発生することはきわめてまれであるということです。

遺伝的にがんができやすい人の場合

次に、もともとがんができやすい状態の人に発生するがんを考えてみます。

代表的な遺伝によるがんのひとつで、BRCAというDNAの傷を修復する遺伝子に生まれながらの変異がある人に発生しやすいがんの統計結果です。

この遺伝子異常を生まれながらもつ人では、全身のすべての細胞にBRCA遺伝子の変異があるため、もし全身の臓器のがんのなりやすさが同じだと仮定したら、どこの臓器にも同じ確率でがんが発生することが予想されます。

ところが、じっさいには、臓器によってがんのリスクが大きく違います。

例えば、女性では、乳がん、卵巣がんのリスクが非常に高くなり、男性では前立腺がんのリスクが高くなることが分かっています。

ところが、肺がんになるリスクは他の人より高くなることはありません。

臓器によってがんのできやすさが違うのはなぜ?

では、なぜ臓器によって「がんのできやすさ」が違うのでしょうか?

乳がんや前立腺がんになる人は多いのに、心臓がんになる人はほとんどいないのは、なぜでしょうか?

この質問については、まだきちんとした答えはわかっていませんし、色々な説があります。
ここでは、もっともらしい3つの理由を紹介します。

1.臓器によって曝露される発がん因子が違うこと

これは、簡単に言うと、発がん物質に触れる臓器と触れない臓器があるということです。

たとえば、肺は、タバコの煙や大気中の汚染物質が直接入ってくる臓器ですので、他の臓器よりも発がん性物質の影響をダイレクトに受けます。

胃や大腸などの消化管は、食べもののなかの発がん物質や、体の外から侵入した細菌などが通過しますので、直に影響を受けます。胃がんの原因であるピロリ菌が代表的な例です。

一方で、心臓には、こういった大気中の汚染物質や細菌などへの曝露はほとんどないと考えられます。

つまり、臓器によって、曝露される発がん物質の種類や量が違うため、がんになりやすさが違うということです。

2.臓器(部位)によって細胞分裂の回数が違うこと

がんの最大の原因は、細胞が分裂するときにおこる、DNAの複製エラーといわれています。

なので、分裂する回数が増えれば増えるほど、複製エラーがおこる確率が増えます。

この細胞分裂の回数は、臓器(部位)によって違います。

例えば、大腸の粘膜には分裂する幹細胞がたくさん存在していて、たえずあたらしい細胞を作り続けています。

一方で、心臓には幹細胞は少なく、心筋細胞はほとんど分裂・増殖しないといわれています。

つまり、大腸の粘膜のように、細胞の増殖がさかんな部位ほど、偶然の複製エラーがおこりやすいから、結果的にがんが発生しやすいというわけです。

3.臓器によってはたらきが違うこと

ご存知のように、臓器はそれぞれ違うはたらきを持っています。そして、臓器のはたらきは、遺伝子で制御されています。

からだのすべての細胞には、およそ2万個の遺伝子がありますが、すべての遺伝子のスイッチがオンになっているわけではありません。

例えば、肺の細胞は、呼吸に関係した仕事をするための遺伝子をオンにしていますが、関係ない遺伝子はオフにしています。

一方で、心臓の細胞は、筋肉が収縮して血液を送り出すための遺伝子がオンになっていますが、他の関係ない遺伝子はオフになっています。

こういった遺伝子のオン・オフは、生まれてから大人になるまでの間に、「エピゲノム」と呼ばれるシステムで決まって、調節されるんですが、色々な原因でオン・オフに異常がでることがあります。

この遺伝子のオン・オフの異常は、臓器によって、異なった結果をもたらします。

例えば、ある臓器のはたらきになくてはならない大事な遺伝子がオンからオフになると、がんになる可能性がありますが、この遺伝子がもともとオフになっている他の臓器では、影響がないというわけです。

 

これ以外にも、臓器によって温度がちがうことから、心臓など温度が高い臓器では、がん細胞が生きられないため、がんが少ない、といった考えもあります。

以上、がんになりやすい臓器、なりにくい臓器でした。

 

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外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。
  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

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