プレハビリテーション(がん手術前の準備)の3つの柱のうちの1つが栄養サポートです。
プレハビリテーションの3つの柱
- 運動
- 栄養サポート
- 精神的ケア
栄養状態が悪化したまま手術を受けると、術後の合併症が増えることがわかっています。
たとえば、栄養状態の指標である血清アルブミン値が低いがん患者は、術後の合併症リスクが高くなり、生存期間も短くなるということが報告されています。
したがって、術前にできるだけ栄養状態を改善しておくべきなのです。
では、がんの手術前には何を食べたらいいのでしょうか?
術前の栄養状態を高める食事とは?
手術前に、運動と並んで重要なのが「食事」です。
実際に、多くのプレハビリテーションのプログラムに食事またはサプリメントによる栄養サポートが組み込まれています。
外来で、手術前のがん患者さんの栄養状態を評価すると、かなりの割合で悪化している人がいます。これには、いくつか理由があります。
まず、がん患者さんは、告知のショックやがんの症状そのものが原因で食欲が低下しています。
手術前に、抗がん剤や放射線による治療を行う場合もありますが、副作用で食欲が低下することもあります。
さらに手術前には色々な検査も重なり、食事制限や絶食のことが増えてきます。
その結果、食事から得られる栄養素が絶対的に不足してきます。
また、一部のがん患者さん(とくに消化器がん)は、消化・吸収障害や慢性炎症などによってタンパク質の消費・分解が進んでいます。
このような理由から、がん患者さんでは栄養状態が悪化します。とくにタンパク質が不足し、筋肉や筋力が減少する傾向があります。
したがって、術前にはタンパク質をしっかりとることに重点を置いた食事を心がけるのがよいのです。
がんの手術前に必要なタンパク質摂取量は?
一般的に、一日あたりのタンパク質平均必要量(推奨量)は、成人で体重1kgあたり0.8~1gと言われています。つまり、体重50kgであれば、一日に50gのタンパク質が必要ということです。
さらに、運動習慣のある人では体重1kgあたり1.2~1.5g、筋肉をつけたい人では2.0gが望ましいといわれています。
したがって、がんの手術を控えて運動もしている人には、体重1kgあたり1.5g(体重50kgであれば、一日に75g)のタンパク質摂取を目標にしてほしいと思います。
タンパク質が豊富に含まれる主な食品には、肉、魚、卵、豆類、乳製品があります。
おおざっぱにいえば、タンパク質の量は肉(牛、豚、鶏肉)では100gあたり20g前後、豆腐は一丁(約300g)あたり20g程度、卵は1個で6g程度、牛乳はコップ1杯(200ml)あたり6.5gです。
これらを上手に組み合わせて、一日に必要なタンパク質がとれるようにメニューを考えましょう。
例えば、朝昼晩の食事ごとに肉を握りこぶし程度(およそ100g)または魚一切れ(およそ100g)のどちらかを必ず食べるようにすると、これだけでタンパク質が20g×3で60gになります。これに、豆腐、卵、乳製品などで必要な量まで足し算していくとよいでしょう。
手元に、食品別のタンパク質量の一覧表や本などを置いておくと便利です。
プロテインでタンパク質を補充
一方で、この量のタンパク質を食事だけで摂ることは、結構たいへんです。そこで、「プロテイン」で補うことをおすすめします。
プロテインには、ホエイプロテイン、ソイプロテイン、あるいはカゼインプロテインなどがありますが、吸収の早いホエイプロテイン(乳清タンパク質)がおすすめです。
以前は「プロテインはマズい」ことで有名でしたが、最近のプロテインは正直おいしいです。
また、さまざまな味やフレイバーのプロテインが販売されていますので、好みのものを選んでください。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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