がんの治療の中心は、手術による切除です。
とくに早期のがんの場合には、手術によって、完全にがんが治る可能性が高まります。
一方で、進行したがん(たとえば、ステージ4)では、転移やまわりの臓器に広がったがんをすべて除去できないという理由で「切除ができない」と判断されることもあります。
これを、一般的に「治癒切除不能」あるいは「切除不能」と呼んでいます。
手術できない進行がんと診断された場合、多くは抗がん剤または放射線などの治療が選択されます。
あるいは、積極的な治療は行わず、支持療法(症状を緩和して楽に過ごせるようにサポートする治療)となるケースもあります。
今回は、この手術が適応とならない「進行がん」と診断された場合にも、体力を維持するためにプレハビリテーションが有効であるというお話です。
すべてのがん治療を受ける患者さんにプレハビリテーションは有効
プレハビリテーション(prehabilitation)とは、(狭い意味では)手術を受ける予定の患者さんが、手術の前からおこなうリハビリテーションのことです。
簡単にいうと、「手術にむけてのからだと心の準備」です。
ですが、手術に限らず、すべての治療を受けるがん患者さんに、このプレハビリテーションは有効なのです。
たとえば、抗がん剤治療を受ける患者は、治療中に筋肉量が減少することが知られています。この筋肉量の減少は、死亡リスクの上昇につながります。
プレハビリテーション(とくに筋トレを中心とした運動)によって、筋肉量を保つことができ、良い状態で治療を受け続けることが可能となります。
あるいは、積極的な治療を受けない場合であっても、疲労感(倦怠感)などの不快な症状を和らげ、毎日を快適にすごす(生活の質を高める)ために、プレハビリテーションは有効であると考えられます。
プレハビリテーションは、すべての治療を受けるがん患者さんに有効な「治療前から始める準備」なのです。
コンバージョン手術にそなえてプレハビリテーションで体力をつける
最近では、より効果の高い抗がん剤が導入され、がんの転移が消えたり、がんが縮小して周囲の臓器から離れて、結果的に切除手術が可能となる症例がでてきました。
このように、いったんは切除ができないと診断された患者さんが、他の治療によって切除ができるようになって行う手術のことを「コンバージョン手術」と呼びます。
たとえば、ステージ4の切除不能胃がん患者43人を対象とした日本からの研究では、mDCS療法という抗がん剤治療によって、最終的に15例(35%)は遠隔転移が消失したり、ダウンステージング(ステージが3以下に下がること)が得られ、コンバージョン手術が可能となったとのことです。
切除不能と診断されて、抗がん剤治療を選択した場合でも、効果次第では、切除ができるようになることもあるのです。
その時にそなえて、体力(とくに筋力と筋肉の量)を維持すべきです。
なぜかというと、抗がん剤治療は、体に負担となったり、副作用で体力が落ちてしまうからです。
せっかく、抗がん剤が効いてがんが小さくなっても、体力や筋肉もいっしょに落ちてしまうと、手術に耐えられないこともあります。
また、合併症や後遺症が増えて、手術の成績も悪くなることがわかっています。
今後、より効果の高い抗がん剤や新しい治療法の開発によって、ますますコンバージョン手術のチャンスが増えると予想されます。
ですので、コンバージョン手術に備えて、プレハビリテーションを実践することをおすすめします。
「手術できない癌」と診断されても希望をもって毎日を過ごすこと
「切除不能のがん」=死 と思ってしまう患者さんもいらっしゃいます。
もちろん、切除可能のがん患者さんのグループと切除不能のがん患者さんのグループを単純に比較すると、切除可能のがん患者さんのほうが、生存期間は長くなります。
ただ、なかには、切除可能のがん患者さんでも早期に亡くなる人がいる一方で、切除不能のがん患者さんでも、長期に生存する人がいます。
抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤など、手術以外の治療法がうまくいって、長期にがんの進行を抑えられることもあります。
あるいは、現時点で治療法がかぎられていたとしても、そのうちに、治験が開始されたり、新しい治療法が使えるようになるかもしれません。
ただ、体力(とくに筋力と筋肉の量)や気力が低下してしまうと、どんな治療も効果が期待できなくなります。
したがって、プレハビリテーションを実践し、毎日を希望をもって前向きに過ごして欲しいと思います。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
最新記事 by 佐藤 典宏 (全て見る)
- 余命(予後)と関係する「がん再発」4つのパターン - 2023年1月23日
- 【がん薬物療法】分子標的薬 アダグラシブ:転移を認めるステージ4「大腸がん(KRAS G12C)」に奏効率46% - 2023年1月21日
- 便秘がちな人に増える意外な「がん」とは?慢性の便秘でリスクが増えるのは大腸がんではなく・・・ - 2023年1月19日