プレハビリテーション(がん手術前の準備)の3つの柱のうちの1つは、精神的ケアです。
プレハビリテーションの3つの柱
- 運動
- 栄養サポート
- 精神的ケア
手術を目前にしたがん患者さんは、不安と恐怖で精神的に不安定となります。
がん患者さんがうつなどの精神症状や心理的苦痛をかかえたまま手術を受けた場合、術後の経過が悪くなる可能性があります。
日本では、がん患者さんの心のケアは軽視されがちですが、じつは手術を控えた患者さんにはとても重要なことなのです。
本来ならば、病院などで専門家(精神科医師や臨床心理士など)によるカウンセリングや不安を軽減する方法のトレーニングなどを行うのが理想的なのですが、実際には利用できる環境が少ないのが現状です。
そこで、がん手術前の患者さんの不安を減らすためのセルフケアとして、瞑想、とくにマインドフルネス瞑想を取り入れることをおすすめします。
がん手術前の患者さんのメンタルケアとしてのマインドフルネス瞑想
マインドフルネス(mindfulness)とは、ごく簡単にいうと、過去や未来のことをあれこれ思い悩むのをやめ、今という瞬間につねに注意を向けて、自分が感じている感覚や感情、思考をあるがままに受け入れることです。
日常生活の中で次々にわきおこる雑念や負の感情、無駄な考えにとらわれていると、心の休まる時間がとれず、ストレスにうまく対応することができなくなってしまいます。
マインドフルネス瞑想は、そんな注意が散漫になった状態から、意識を「今、ここ」に向けて集中した状態にみちびくことにより、ストレスを軽減する方法です。
マインドフルネスを使った瞑想のプログラムは、ストレス対処法の1つとして医療などさまざまな現場で実践されており、最近注目を集めています。
とくに、がんに伴う症状の改善や、がん患者・サバイバーの生活の質を高める目的でマインドフルネスが取り入れられてきました。
マインドフルネスの起源は仏教(ヴィパッサナー瞑想)にあるとされていますが、1979年に米国マサチューセッツ大学教授のジョン・カバット・ジン博士が、痛みなどの症状を緩和するための心理学的治療法として、マインドフルネス・ストレス低減法(Mindfulness-based stress reduction: MBSR)を開発しました。
最近の臨床試験により、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)によって、乳がん患者さんの疲労感などの症状が改善し、身体的および精神的な健康(QOL)が促進されたことが証明されています。
マインドフルネス瞑想の方法
基本的なマインドフルネス瞑想の方法を紹介します。
- 静かな部屋でひとりになります。
- 座って、リラックスした状態で背筋を伸ばします。
- 目を閉じ、ゆっくりと鼻で呼吸をはじめます。
- 呼吸に意識を集中し、ただお腹や胸がふくらんだり、へこんだりする動きを感じます。
- 瞑想中に、感情や雑念がわいた時は、良い悪いという判断をせずに素直に受け入れ、再び「今この瞬間」に意識を向けます。
- 10分〜20分程度行ったら、ゆっくりと目を開き、少しずつ意識を戻していきます。
手術を控えたがん患者さんは、おそらく瞑想中にも「がん」や「手術」のことが頭に浮かび、不安や恐怖といった感情がわき上がってくることでしょう。
マインドフルネスでは、このような感情を否定したり、無理に消そうとするのではなく、ありのまま受け入れることから始まります。
そして、「今ここ」に心を向けることにより徐々に無の状態に近づいてきます。瞑想を続けることによって、ストレスや不安、恐怖心が軽くなり、精神的な状態が改善されるでしょう。
マインドフルネスについて詳しく知りたい人に参考になる本を紹介します。
マインドフルネス瞑想の方法を学びたい方はこちら
より専門的な内容(マインドフルネス・ストレス低減法)を知りたい人はこちら
まとめ
がんの手術を控えた患者さんのプレハビリテーションの1つとして、精神的ケアはとても重要です。
自宅でもできるマインドフルネス瞑想をおすすめします。
この記事の内容は、『がん手術を成功にみちびくプレハビリテーション:専門医が語る がんとわかってから始められる7つのこと(大月書店)』をもとに執筆しています。
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