悪性黒色腫に対するがんワクチン(個別化mRNAワクチン)をキイトルーダ(ペンブロリズマブ)に併用する第2相臨床試験の結果が発表されました。がん再発・死亡が44%も減っていたということですが、はたして、がんmRNAワクチンは新しい免疫療法として期待できるのでしょうか?
はじめに
mRNAワクチンは、新型コロナウイルスに対するワクチンとして初めて実現化して、現在では世界中で使われるようになりましたが、以前から「がんワクチン」としても研究が行われていました。
そして今、がんに対する有望な治療法として臨床試験が行われています。
がんに対するmRNAワクチンとは?
mRNA医薬品とは、人工的に作ったmRNAを細胞内に届けることで、目的のタンパク質を合成させる方法です。
新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンのターゲットはご存じのようにスパイク蛋白ですが、がんに対するmRNAワクチンの場合は、目的はネオアンチゲンと呼ばれるがん抗原です。
がんmRNAワクチンのメカニズムは、まず、合成されたmRNAが細胞内に取り込まれて、細胞内でがん抗原のタンパク質ができます。
このがん抗原を免疫細胞が覚えて、活性化されます。
活性化された免疫細胞は、がん細胞を攻撃するようになります。
こうして、がんに対して治療効果が発揮されます。
mRNAのターゲットとなる抗原は、製薬会社によって違います。
広くがんで発現している有名ながん抗原や、患者さんのがんで発現しているがん抗原を調べて、個別に設計した複数のがん抗原のセットをつかった薬もあります。
今回、モデルナが臨床試験に使ったがんワクチン(mRNA-4157/V940)は、個別化がんワクチンです。
これは、患者さんのがん組織を採取して、次世代シークエンサーで遺伝子変異を網羅的に調べます。
そして、そのなかで、がんの目印となるネオアンチゲンを最大で34個までデザインしたmRNAワクチンを患者さんに接種するという治療戦略です。
つまり、患者さんひとりひとりのがんに個別にデザインされたワクチンなので、非常に高い効果が期待できるというわけです。
今回、このニュースとなった悪性黒色腫に対する臨床試験(KEYNOTE-942)ですが、
第2相臨床試験で、ステージIIIとIVの悪性黒色腫の患者さんに対して、完全切除後に、再発防止の目的で、免疫チェックポイント阻害薬のペンブロリズマブ(キイトルーダ)にこのmRNAがんワクチンを併用した試験です。
結果は、mRNAワクチン併用群で、ペンブロリズマブ単独に比べて、再発・死亡リスクが44%も低下していたということです。
mRNAワクチンの今後の展望
この結果を受けて、2023年には、第3相試験を開始する予定であることをアナウンスしています。
さて、がんに対するmRNAワクチンですが、はたして、がん治療のブレイクスルーになるのでしょうか?
まだ今回の結果は第二相試験の短期の成績ですし、ひとつの臨床試験の結果では、なんとも言えませんが、かなり有望であると考えられます。
とくに、今回の患者さんのがんに応じた個別化ワクチンと免疫チェックポイント阻害薬との併用治療は、期待できると思います。
ちなみに、現在、たくさんのがんmRNAワクチンの臨床試験が行われています。
がんの種類についても、悪性黒色腫だけでなく、肺がん、トリプルネガティブ乳がん、大腸がん、前立腺がん、膵臓がん、卵巣がん、脳腫瘍など、多岐にわたります。
ほとんどは、安全性を確認する第一相試験や、今回のような第二相試験ですので、今後の結果を注視したいと思います。
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