アレルギー性の病気のなかでも、年々増加している「アトピー性皮膚炎」とがんとの関係についての研究を調査してみました。アトピー性皮膚炎があると、ある種のがんが増える可能性があるということです。
はじめに
アレルギーが引き起こす病気には、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アトピー性皮膚炎、気管支喘息(ぜんそく)、食餌性アレルギー(食物アレルギー)など、色々なものがあります。
こういったアレルギーのある人では、がんのリスクが増えるのか?という議論があるのですが、アレルギーとがんとの関係については、相反する研究結果があって、統一した見解が得られていません。
これまでの報告では、アレルギー性の疾患があると、免疫の監視システムが強化されて、がんが減るという説と、逆に、免疫の刺激や暴走でがんが増えるという説があります。
今回は、アレルギー性の病気のなかでも、年々増加している「アトピー性皮膚炎」とがんとの関係についての研究を調査してみました。
アトピー性皮膚炎とがんとの関係
ひとつめの論文は、2020年に、JAMA Dermatology という雑誌に報告された研究です。
イギリスとデンマークの2つの国での大規模な集団研究で、アトピー性皮膚炎と診断された人と、アトピー性皮膚炎のない人との間で、がんの発症リスクを比較した研究です。
その結果、アトピー性皮膚炎とがん全体の発症率との間には、あきらかな関連はみられなかったということです。
ところが、一部のがんのリスクが高くなっていました。
それはリンパ腫で、非ホジキンリンパ腫が19%、ホジキンリンパ腫が48%高くなっていました。
また、アトピー性皮膚炎の重症度が高い場合には、リンパ腫のリスクがさらに高くなっており、重症の皮膚炎では非ホジキンリンパ腫のリスクが2倍になっていました。
もう1つは、2020年に、同じ、JAMA Dermatology に報告された研究です。
こちらは、過去に報告された、アトピー性皮膚炎とがん(皮膚がんが多いのですが)との関係についての観察研究を集めて、総合的に解析したものです。
その結果、8つの集団研究の解析では、アトピー性皮膚炎のある人では、皮膚のケラチノサイトがん(有棘細胞がんなど表皮ケラチノサイトから発生したがん)のリスクが46%、腎臓がんが86%、脳腫瘍などの中枢神経系の腫瘍が81%、そして、すい臓がんが90%高くなっていたとのことです。
一方で、肺がんのリスクはおよそ40%低くなっていました。
以上の結果より、アトピー性皮膚炎がある人では、特定のがん、おもにリンパ腫(とくに、非ホジキンリンパ腫)、皮膚のケラチノサイトがん、そして、腎臓がんなどのリスクが高くなるという結果でした。
ただし、いずれも海外からの報告で、他の研究では関連がなかったという結果も報告されていますので、そこまで確実なエビデンスとは言えないかもしれません。
ちなみに、日本人を対象とした同じような研究を探してみましたが、みつかりませんでした。
まとめ
以上の結果をまとめますと、アトピー性皮膚炎があると、がん全体のリスクは増えないということですが、リンパ腫など一部のがんのリスクが高まる可能性があります。
もちろん、なぜ、アトピー性皮膚炎があると、リンパ腫が増えるのかというメカニズムについてはわかっていません。
ただ、2020年に、Science Translational Medicine という雑誌に報告された研究では、アトピー性皮膚炎の患者さんの血液中のナチュラルキラー細胞(NK細胞)が減っていて、また、その免疫機能に障害があったということです。
NK細胞は、がん化を防ぐ大切な免疫細胞ですから、こういった免疫のシステムの変化が、ひとつの原因になっているかもしれません。
というわけで、アトピー性皮膚炎があると「がん」が増える?というお話でした。
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