日本人の2人に1人が一生のうちにがんにかかる時代において、がんに冷静に対処して克服するためには、どんな準備が必要でしょうか?長年、がん患者さんを診てきた外科医が考える自己防衛のための「最強の武器」を3つ紹介します。
はじめに
よく耳にするフレーズになりつつありますが、今や「日本人の2人に1人が一生のうちにがんにかかり、5人に1人ががんで亡くなる時代」になりました。
たとえこれまで大きな病気を経験したこともなく、「自分は健康だ」と信じている人でも、近い将来がんにかかるリスクをかかえた「がん予備軍」であることを自覚する必要があります。
まずは、がんの予防のためにできることをして頂きたいと思います。
ただ、たとえ一生懸命に予防をしていても、がんは100%防げるわけではありません。
ですから、がんになった時のために「備え」を蓄えておく必要があります。
では、がんになったとしてもあわてずに対処できて、治療でがんを克服するためには、どういった「備え」が必要か、ということですが、私が考える「最強の武器3つ」を紹介したいと思います。
「備えあれば憂いなし」といいますが、この3つを備えておけば、絶対大丈夫とは言いませんが、治療がうまくいって長生きするチャンスが増えることは間違いないと思います。
それは、覚えやすく、3つの「きん」として紹介します。ではさっそく、最初のきんからお話しましょう。
がんへの備え:3つの「きん」
1.筋肉
まずは筋肉です。
過去の動画で、なんどもお話しているように、がんになったときに、筋肉があったほうが、断然有利になります。
筋肉は、加齢によって少しずつ、自然に減少していきます。
80歳のときの下半身の筋肉量は、20歳のときと比べて、およそ30%も減少しているそうです。
これに運動不足や栄養障害などの要因が加わると、さらに筋肉量がより早く、よりたくさん減少します。
その結果、気づかないうちに陥ってしまうのが「サルコペニア(sarcopenia)」という、筋肉がやせた状態です。とくにがん患者さんではサルコペニアの割合が多いことが特徴です。
がんの診断時にこのサルコペニアがあると、手術や抗がん剤、あるいは放射線治療がうまくいかないために、生存期間が短くなることがわかっています。
たとえば、尿路上皮がんの患者さんのデータですが、診断時にサルコペニアがある患者さんの生存期間は、サルコペニアがない患者さんよりも、大幅に短くなっていました。
つまり、筋肉が少ない患者さんでは、治療が効かずに早く亡くなってしまうことが多いことがわかります。
というわけで、がんへの備えとして、「筋肉」を蓄えておくことが重要です。
このためには、筋トレとタンパク質を意識した食事をとることです。
がんになったときの筋肉の重要性と具体的な筋トレの方法をより詳しく知りたいかたは、こちらの私の著書「がんに負けないたった3つの筋トレ」を参考にしてください。
2.腸内細菌
腸内細菌は、体を守り、人間のパートナーとして健康を保つ手伝いをしています。
腸内細菌は、消化吸収だけでなく、全身の炎症や免疫機能とも関係しています。
腸内環境が乱れると、全身の炎症がおこったり、免疫の機能が低下することで、がんになりやすくなるわけです。
研究によると、腸内細菌が多く存在する大腸のがんだけでなく、胃がん、膵臓がん、そして、腸とつながっていない、乳がん、肺がん等にも、腸内細菌が関与していることが報告されています。
また、腸内細菌は、がんの原因にとどまらず、がん患者さんの治療成績に影響し、予後(生存期間)と相関するという研究データも増えています。
つまり、大げさに言うと、がんと診断されたときの腸内細菌の状態によって、治療がうまくいくかどうかが決まる、ということです。
実際に、がんの患者さんの腸内細菌を比べると、腸内細菌の多様性が高い(つまり、簡単に言うと、種類が豊富な)患者さんの方が、少ない患者さんより、生存期間が長いということが報告されています
とくに、現在多くのがん患者さんに使われている免疫チェックポイント阻害薬による治療を受ける場合には、腸内細菌の状態が生存期間に大きく関わってきます。
これは、ニボルマブという薬の投与を受けた肺がん患者さんの、治療前の腸内細菌の状態(多様性)でグループ分けした生存率ですが、多様性が高い患者さんのほうが、治療がよく効いて長生きしていることがわかります。
では、腸内細菌の多様性を高めて理想的な状態にするためにはどうしたらいいのでしょうか?
まず最も重要なのは、食事です。
最近では、私たち日本人の食卓から和食の文化が失われて、西洋からきたファーストフードや加工食品などが普及しつつあります。
その結果、善玉菌が含まれる発酵食品や、そのエサとなる食物繊維をふくむ野菜や果物、海藻類の摂取が減っています。
一方で、おもに悪玉菌のエサとなる肉類(動物性タンパク質)の摂取が増えました。
ですから、こういった食生活を見直す必要があります。
海外からの研究では、食べ物を意識して変えることで、腸内細菌が変化することが確認されています。
少なくとも、食物繊維をたくさん含む食事をこころがけましょう。
3.お金
最後はお金です。
がん治療にはお金がかかります。
代表的ながんの治療費として、早期であれば自己負担額は20万円程度ですむのですが、ステージがすすむにつれて高くなり、ステージIVでは100万円以上になることもめずらしくありません。
また、医療費だけでなく、たとえば入院中の食事代や差額ベッド代(個室を希望した場合)、病院へ通うための交通費、副作用や後遺症に対するケアの出費、健康食品(サプリメント)代など様々な出費があります。
もちろん治療費が高額になると、上限を超えた分は返金される「高額療養費制度」といった救済制度はありますが、それでも自己負担はあるわけですし、治療が長くなると経済的な負担は大きくなります。
もう一つの問題は、がんになると仕事が減ったり、なくなったりして、収入が減ることが多いことです。
この場合、負担はさらに大きくなります。
実際に、治療費が払えないために治療を諦めざるを得ない患者さんが増えているということです。
ですから、がんになった時のために、ある程度、お金を蓄えておくことをおすすめします。
家庭の経済事情によっては貯金が難しい場合もありますが、可能な範囲で「がん貯金」としてお金を貯めるか、あるいは、「がん保険」に入ることをおすすめします。
まとめ
以上、がんで死なないために備えておきたい3つの武器として、筋肉、腸内細菌、そして、お金でした。
がんは突然やってくる災害のようなものですが、備えがあれば、あわてずに冷静な判断ができますし、がんを克服できる可能性が高くなると思います。
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