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食事療法の併用でステージ4のがんが寛解:絶食模倣食(FMD)臨床試験で例外的な著効例

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ある食事療法を標準治療に組み合わせることで、ステージ4をふくむ非常に進行したがんが5例も寛解したという報告を紹介します。その食事療法とは、絶食模倣食(FMD)です。

はじめに

今回は、ある食事療法を標準治療に組み合わせることで、非常に進行したがんが寛解したという報告を紹介します。

がんの治療中は、多くの患者さんで、食欲が低下します。

以前は、がん患者さんが栄養状態を保つためには、毎日、しっかりと食べて、十分なカロリーをとるべきと考えられていました。

ですから、「栄養をとるために、すこし無理してでも食べた方がいい」というふうに指導していたわけです。

ところが、最近では、抗がん剤治療の前後には、むしろ食事を減らしてカロリー制限をしたほうが、副作用が減って、しかも、治療効果が高まる可能性がある、という報告が増えてきました。

これは、長期間の食事制限ではなく、治療前から数日間だけ、間欠的な絶食に近いダイエットをしたり、あるいは、カロリー制限をするという食事療法で、代表的なものが、「絶食模倣食」です。

絶食模倣食(fasting mimicking diet: FMD)とは、言葉通り「絶食に近い食事」という意味で、一定の期間、ほとんどカロリーのあるものは摂らないという食事療法です。

具体的には、野菜を中心としたスープや液体の食べ物が中心で、お茶など水分のみは好きなときに摂取してよいというスタイルです。

この絶食模倣食を、抗がん剤などによる治療に組み入れることで、副作用が減ったり、治療効果が高まることが期待されています。

進行がん患者を対象とした食事療法と標準治療の併用

実際に、進行がんの患者さんを対象として、この食事療法と標準治療を組み合わせた臨床試験が海外で行われています。

この臨床試験の第一報は、今年(2022年)の1月にCancer Discoveryという雑誌に最新の研究結果が報告されました。イタリアで行われている試験です。

抗がん剤などの治療を受けるさまざまな種類(乳がん、大腸がん、肺癌など)のがん患者さん101人に対して、抗がん剤など通常の治療に加えて、絶食模倣食を併用しました。

絶食模倣食は、5日間だけカロリーを300~600 Kcalに制限して、その後のおよそ20日は、通常の食事にもどして、これを繰り返すというスケジュールです。

この試験では、この食事療法の安全性を確認することが目的ですが、結果は、とくに絶食模倣食にともなう副作用はなかったということです。

また、血液や腫瘍の検査などの結果、全身と腫瘍の内部における、がんに対する免疫のシステムが活性化されていたということもわかりました。

絶食模倣食の併用で、進行がんが寛解

そして今回、この臨床試験の続報として、非常に効果があった症例が紹介されました。

2022年の7月にEur J Cancer という雑誌に報告された論文です。

まずはこの臨床試験(NCT03340935 trial)の全体の結果ですが、観察期間の中央値が44ヶ月における、試験に参加した全例の生存期間(中央値)は、およそ30ヶ月とのことでした。

さらに、この論文では、臨床試験に参加した患者さんのうち、ステージ4をふくめた進行したがんが、画像上、確認されなくなった症例が紹介されています。それも1例だけでなく、5例もあったということです。

この5例を紹介します。

1例目は、61歳男性で、進展型の小細胞肺がんの患者さんです。

免疫チェックポイント阻害薬のペンブロリズマブによる治療と、絶食模倣食を併用する治療をおこなったところ、がんが急速に縮小して、がんによる胸水がほぼ消失したとのことです。

高かった腫瘍マーカーも、正常まで下がって、治療開始から40週目の現在も、正常範囲のままだそうです。

2例目は、74歳女性で、肝臓に転移を認めるステージ4のすい臓がんの患者さんです。

ゲムシタビンとナブパクリタキセルによる抗がん剤治療と、絶食模倣食を行いました。

その結果、すい臓の原発がんと、肝臓の転移が両方とも消失して、CR(完全奏功)になりました。その後、52ヶ月(4年以上)長期にわたって消えたまま、とのことです。

最初、認められていた、膵頭部のがんは、消失して確認できなくなっています。

同時に、腫瘍マーカーのCA19-9も、治療の途中から急に下がって、その後、ずっと低下したままとのことです。

3例目は47歳の男性で、結腸がんの患者さんです。

がんの切除後に、腹膜播種で再発したため、カペシタビン、イリノテカン、およびベバシズマブによる、抗がん剤治療を行い、同時に、絶食模倣食を始めました。その結果、腹膜に再発していたがんが完全に消失したとのことです。

一旦、治療が終わった後しばらくして、(PETで光っているところですが)腹膜にがんが再度出現したために、改めて、抗がん剤と絶食模倣食を開始したところ、がんが再び消えたとのことです。

ですので、2回目の完全奏功が得られた症例です。

4例目と5例目は、58歳と42歳の女性で、骨や肝臓など全身に転移をみとめるトリプルネガティブ乳がんの患者さんです。

ともに通常の抗がん剤治療と絶食模倣食を開始したところ、転移を含めたすべてのがんが縮小して、みえなくなっていた、ということです。

以上、ステージ4をふくむがん患者さんのうち、標準治療と絶食模倣食を併用することで、5例において完全奏功が得られ、ある程度の期間、効果が持続しているという報告でした。

まとめ

一般的に、こういった進行がんの患者さんで、抗がん剤治療を行ったとしても、完全奏功はきわめて少ないわけです。

ですので、今回の臨床試験で5例にも完全奏功がみられたことは、例外的な治療効果であると結論づけています。

こういった良く効いた症例は「チャンピオンケース」と呼ばれて、たまたま効いただけという専門家もいます。

ただ、チャンピオンケースが5例も続けば、やはり、その治療法の効果には普遍性がある可能性が高くなります。

注意していただきたいのは、現時点で、がん患者さんにおけるカロリー制限や絶食模倣食の安全性や効果については、まだ研究段階であり、しっかりと確認されたものではないということです。

臨床試験の結果では安全であったということですが、患者さんによっては栄養障害をきたすリスクもあります。

ですから、こういった食事療法を積極的に取り入れるべきかどうかは、今後の研究結果を待ってから決める方がいいとは思います。

今回紹介した結果をもとに、この絶食模倣食の臨床試験はさらに続く予定になっています。

ですので、新しい情報がでましたら、またお伝えしようと思います。

 

【注意】
現時点で、がん患者さんにおけるカロリー制限や絶食模倣食などの食事療法の安全性や効果については、まだ研究段階であり、しっかりと確認されたものではありません。患者さんによっては栄養障害やがん悪液質(カヘキシア)をきたすリスクもあります。食事療法の有効性については、今後のさらなる研究結果を待ちたいと思います。

 

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外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。
  • この記事を書いた人

佐藤 典宏

外科医(産業医科大学第1外科講師)/がん研究者/YouTube「がん情報チャンネル」登録者2万人突破!/著書に『ガンとわかったら読む本』『がんが治る人 治らない人』『がんにならないシンプルな習慣』など。がん患者さんと家族に役立つ情報を発信します。

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