子ども時代の副流煙への曝露(受動喫煙・間接喫煙)によって、あるタイプのがんの死亡リスクが高くなるという非常にこわい研究結果が日本から報告されました。
それは、肺がんではなく、〇〇がんでした。
はじめに
他人が吸った、たばこの煙(副流煙)にさらされる「受動喫煙(あるいは間接喫煙)」の健康被害が報告されています。
とくにコロナ禍で家族が家の中にいることが多くなったことにより、ますます副流煙の問題がクローズアップされています。
恐ろしいことに、たばこを吸う本人がフィルターを通して吸い込む「主流煙」よりも、「副流煙」の方がより多くの有害物質(発がん性物質)を含んでいることがわかっています。
副流煙とがんとの関係
厚生労働省の「最新たばこ情報」によると、副流煙の方が、ニコチン(主流煙の2.8倍)、タール(3.4倍)、一酸化炭素(4.7倍)、さらにニトロソアミン(52倍)などの有害物質(発がん性物質)が多く含まれているとのことです。
受動喫煙によって、脳卒中、虚血性心疾患、呼吸器疾患、乳幼児突然死症候群(SIDS)などのさまざまな病気が引き起こされることがわかっていますが、最大の関心事は「がん」のリスクが高まることです。
これまで、大人の受動喫煙とがんとの関係についての研究が報告されています。
たとえば、自分ではたばこを吸わない28,414人の日本人女性を対象とした研究によると、たばこを吸わない夫を持つ女性に比べ、たばこを吸う夫に持つ女性では、肺がんの発症リスクが34%も高いことがわかっています。なかでも、肺腺がんのリスクが高く、およそ2倍にもなっていました。
受動喫煙によってリスクが増加するがんは、肺がんだけではありません。たばこを吸わない日本人女性を対象にした解析では、家庭あるいは職場など公共の場所で受動喫煙を受けていたグループの乳がんの発症リスクは、受動喫煙のないグループに比べて2.6倍も高いことがわかりました。
このように多くの研究データより、副流煙はがんのリスクを高める危険因子として確実視されています。
そして、今回、子ども時代の副流煙曝露によって、あるタイプのがんの死亡リスクが高くなるという非常にこわい研究結果が日本から報告されました。
子ども時代の副流煙への曝露ですい臓がんの死亡リスクが増加
2021年12月にAm J Epidemiolという雑誌に報告された論文です。
自分ではたばこを吸わない45,722 人の日本人(40-79歳)を対象として、子ども時代(小学生および中学生のころ:6歳~15歳)に、家族の何人がたばこを吸っていたかを調査しました。
そして、副流煙への曝露の程度と、その後およそ19年の追跡調査期間におけるがんによる死亡との関係を解析しました。
その結果、子ども時代の副流煙への曝露は、すい臓がんによる死亡リスクの増加と相関していました。
家族にたばこを吸う人が3人以上いた人では、全くいなかった人に比べて、すい臓がんによる死亡リスクが 2.32倍 (95% CI: 1.14, 4.72)にも高くなっていました。
ちなみに、がん全体の死亡リスクや他の種類のがん死亡リスクとの関係は認めませんでした。
以上の結果から、子ども時代に副流煙に曝露することは、大人になってからのすい臓がんによる死亡リスクの増加につながるという結果でした。
受動喫煙・副流煙を避ける重要性
家族や一緒に住んでいる人に、たばこを吸う人がいる場合には、家や車の中などで日常的に有害な副流煙にさらされることになります。
とくに、罪のない子どもの副流煙への曝露は絶対にさけるべきです。
子どもを副流煙から遠ざけること、そして、家族がたばこを吸っている場合には、受動喫煙の危険性を理解してもらい、ただちに禁煙してもらいましょう。
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