抗がん剤治療中にも運動したほうがいいのか?今回、食道がん患者を対象とした臨床試験で、手術前の化学療法中に運動をすることで、治療効果がアップしたという報告を紹介します。
はじめに
がんの手術前には、運動を含めたリハビリである「プレハビリテーション」をオススメしています。
とくに、手術前に抗がん剤治療をうける患者さんでは、体力と筋力が落ちることが多いため、とくにプレハビリテーションの重要性が高まると考えられています。
さらに、基礎的な実験では、抗がん剤治療中に運動をすることで、がんの血流が増え、抗がん剤が届きやすくなり、結果的にがんの治療効果が高まることが確認されています。
膵臓がんの人を対象とした研究では、術前の抗がん剤治療中に運動をした人では、がんの内部の血管が増えていたということが報告されています。
しかし、これまでは、「抗がん剤治療中の運動が、がんに対する治療効果を高める」という人での研究結果はありませんでした。
今回、がんの手術前の抗がん剤治療中に運動をすることで、がんの治療効果が高まったという最新の研究結果を紹介します。
がん術前の運動で抗がん剤の治療効果がアップ
今年(2022年)の2月1日、Br J Sports Medのオンラインジャーナルに報告されたばかりの論文です。
術前化学療法を予定している食道がんの患者さんを対象とした非ランダム化比較試験です。
40人の患者さんを、運動群とコントロール群に分けて、抗がん剤治療を受けてもらい、その後、手術をおこなって、治療効果などを判定した研究になります。
運動群では、専門のトレーナーの指示のもと、抗がん剤治療中に、専門の施設と自宅で、中程度の強さの運動(有酸素運動と筋トレ)を続けてもらいました。
コントロール群では、こういった運動の指示はありませんでしたが、とくに制限もありませんでした。
治療効果の評価方法は、じっさいに手術で切除したがんの病巣を顕微鏡で観察して、がん細胞がどのくらい残っているかということを段階として評価しました。
具体的には、Mandar TRGという評価方法で、1~5のグレードで評価し、1ががん細胞が全く残っていないということで、最も効果が高いという評価で、5が、治療効果がまったくみられないということで、最も低いという評価です。
結果ですが、TRG1-3(つまり、治療効果がある程度以上の症例)は、運動群では75%、コントロール群では37%と、運動群で有意に高くなっていました。
また、腫瘍が小さくなったり、リンパ節転移が減って、ステージが下がった(いわゆるダウンステージングがみられた)症例は、運動群で43%と、コントロール群の16%より有意に高いという結果でした。
さらに、運動群では、筋肉量が増えており、免疫や炎症のマーカーもがん治療にとってよい状態へ変化していました。
まとめ
今回はじめて、人における臨床試験で、抗がん剤治療中の運動が、がんの治療効果を高めるという前向き試験の結果が報告されました。
今後、より大規模な臨床試験で、この効果が確認されることを期待したいです。
いずれにしても、抗がん剤治療中には、安静にしているよりは、むしろ、運動したり、活発に体を動かすほうがいいようです。
もちろん、副作用で、きつくて、からだが動かない日もあるとは思いますが、少し楽になったら、散歩にいったり、スクワットをしてみてはいかがでしょうか?
#プレハビリテーション #術前化学療法 #食道癌 #筋肉 #有酸素運動 #筋トレ
最新記事 by 佐藤 典宏 (全て見る)
- 余命(予後)と関係する「がん再発」4つのパターン - 2023年1月23日
- 【がん薬物療法】分子標的薬 アダグラシブ:転移を認めるステージ4「大腸がん(KRAS G12C)」に奏効率46% - 2023年1月21日
- 便秘がちな人に増える意外な「がん」とは?慢性の便秘でリスクが増えるのは大腸がんではなく・・・ - 2023年1月19日