「若いがん患者さんは、進行が早くて、長生きできないことが多い」と言われることがあります。実際はどうなのでしょうか?若いがん患者さん(50歳未満)の予後(再発、生存期間など)についての過去の研究結果を調べてみました。
はじめに
先日、バレーボール男子日本代表の藤井直伸さんが、目の不調を調べるために検査入院した際に、胃がんのステージ4だと医師から宣告されたというニュースが流れました。
30歳の若さということもあって、とても驚いたのですが、最近では、藤井さんのように、若くしてがんと診断される人が増えています。
一般的に、「若いがん患者さんは、高齢の患者さんに比べて、進行が早くて、短命である」と言われることがありますし、そういう先入観を持っている人も多いと思います。
これは、一つには、若いがん患者さんが、より進行した状態で発見されることが多いことが理由になっていると感じます。
では、実際のところは、どうなのでしょうか?
若いがん患者さん(医学用語では、「若年性のがん」といいますが)は、進行が早くて、生存期間も短いのでしょうか?
代表的ながんについて、種類別にみてみましょう。
若年性がん患者の予後(生存期間)
胃がん
2021年にFrontiers in Oncologyという雑誌に報告された論文です。
中国人の胃がん患者3000人以上のデータベースを調べたところ、45歳以下の若年発症例が154人ありました。
この若年胃がん患者と、45歳以上の中高年の胃がん患者の生存期間を比較したところ、比較的早期の切除可能な胃がん患者における解析では、生存期間に差はありませんでした。
一方で、より進行した切除不能な胃がん患者における解析では、中高年患者の生存期間が17.5ヶ月に対して、若年患者の生存期間は12ヶ月と、有意に短くなっていました。
同じように、日本から、胃がんのステージ4の若年患者についての研究があります。
今年の1月に J Gastrointest Cancerという雑誌に報告された論文です。
胃がんのステージ4患者555人を、40歳未満の若年グループ(20人)と、60歳から75歳までの中高年グループ(535人)に分けて、生存期間を比較しました。
その結果、(母数が少ないのですが)、若年グループのほうが、生存期間が短くなっていたとのことです。
したがって、若年性のがん患者さんは、切除ができない進行がんでは生存期間が短くなる傾向があるようです。
大腸癌
まずは、2021年にJNCIという雑誌に報告された論文です。
アメリカの2326人のステージIII大腸がん患者のうち、50歳未満で発症した患者は514人(22%)でした。このがん発症年齢が50歳未満と50歳以上で生存期間を比較したところ、全生存期間も無増悪生存期間も、ともに、有意な差はありませんでした。
一方で、35歳未満のより若い患者グループに限定した解析では、50歳以上のグループと比べて、少しだけ全生存期間が短くなっていました。
もう一つは、2021年にJ Clin Oncolという雑誌に報告された論文です。
ステージIIとIIIの大腸がんに対して、手術と術後の抗がん剤治療を行った患者16349人を対象として、50歳未満と50歳以上に分けて治療成績を比較した研究です。
その結果、再発率などの治療成績は、若年患者のグループのほうが、有意に悪くなっていたということです。
たとえば、これはステージIIIの患者さんの無再発率を示したグラフですが、50歳未満の若年性大腸がんのグループで明らかに低くなっています。
以上より、大腸がんでは、若年性の患者では再発やがんによる死亡率が多くなるという結果と、生存期間は変わらないという結果があります。
膵臓がん
2019年にLangenbecks Arch Surgという雑誌に報告された論文です。
SEERデータベースという海外の患者データベースから、膵臓がんの患者さん72,906人について調査しました。このうち、6.2%の4523人が50歳未満でした。
若年性のがん患者では、より進行したステージが多かったということです。
こういったステージなどの条件を同じように調節して、50歳未満、50歳以上のグループで生存期間を比較したところ、若年性のがん患者のほうが、全生存期間が若干、短くなっていたということです。
とくに、手術を受けた患者さんの解析では、5年生存率が、50歳以上の患者で約27%、若年性患者で約18%と、生存期間の差が大きくなっていました。
というわけで、膵臓がんでは、全体の生存率も低いのですが、50歳未満の若年患者はさらに生存期間が短くなる傾向があるとのことです。
まとめ
以上まとめますと、若年性のがん患者は、中高年と比べて、
・胃がん:進行がんでは予後が不良
・大腸がん:明らかな差はない、または予後が不良
・ 膵臓がん:予後不良(とくに手術例)
という結果でした。
つまり、若いがん患者さんは、一概に、年齢の高い人のがんよりも進行が早くて生存期間が短いわけではなく、「がんのタイプやステージによっては、高齢の患者よりも生存期間が短い傾向がある」ということです。
一方で、若いほうが、一般的には体力があるわけですので、より強力な治療に耐えることができるため、治療がうまくいけば、長期に生存できる可能性もあります。
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