膵がんのリスクを高める持病に糖尿病や慢性膵炎があります。一方で、膵がんのリスクが下がる持病も報告されています。今回は、膵がんのリスクが30%以上も減る持病についての研究結果を紹介します。
はじめに
最近、増えているがんの1つに「膵癌(すい臓がん)」があります。
症状がでにくくて、早期発見が難しいことから、リスクを高める因子(つまり、どんな人が膵がんになりやすいか)を知っておくことが大切です。
膵がんの代表的な危険因子として、糖尿病や慢性膵炎などがあります。
例えば、糖尿病の人では、膵がんになるリスクが2~3倍にも高くなるという研究があります。
一方で、膵がんになりにくい持病があるということが、研究からあきらかとなっています。
では、どんな病気があったら、膵がんになりにくいのでしょうか?
膵がんになりにくい持病とは?
2017年にGutという雑誌に報告された論文です。
ヨーロッパの複数の施設で行われた症例対照研究です。
症例対照研究とは、疾患群(この研究の場合、膵がん)と対照群で比較を行うことにより、ある要因について差があるかないかを判別する方法です。
1297人の膵がんの患者さんと、1024人の膵がんのないコントロールの人について、ある病気の既往歴を調べました。
その疾患とは、喘息などのアレルギー疾患です。
つまり、喘息などのアレルギー疾患がある人では、膵がんが増えるのか、あるいは、減るのか、という関係を調べた研究です。
結果ですが、喘息がある人では、膵がんのリスクが36%低下しており、とくに、17年以上にわたって長期間、喘息があった人では、61%も下がっていました。
同じように、アレルギー性鼻炎がある人では、膵がんのリスクが34%低下していました。
一方で、アトピー性皮膚炎といった皮膚のアレルギー性疾患については、明らかな関連を認めませんでした。
喘息、アレルギー性鼻炎があると、膵がんのリスクが下がるという今回の研究結果は、過去に報告された研究をまとめて解析した結果と一致していました。
したがって、喘息や鼻のアレルギー性疾患があると、膵がんになるリスクが下がるという結果でした。
この他にも、花粉症がある人では、膵がんの発症リスクが43%も減っていた、という研究も報告されています。
アレルギー疾患があると、なぜ膵がんのリスクが減るのか?
なぜ、喘息や、花粉症などアレルギー性鼻炎があると、膵がんになりにくいか、という理由についてはわかっていませんが、おそらく免疫が関与していると考えられています。
つまり、アレルギーは、外からの侵入者(異物)に対する過剰な免疫反応ですので、同時にがんに対する免疫が活性化されることで、がんのリスクが下がる可能性が指摘されています。
このように、がんとアレルギーには何らかの関係があるということが、色々な研究からあきらかとなっています。
アレルギー疾患とがん
ただ、今回の研究のように、アレルギー性の病気があると、がんが減るという結果ばかりでなく、逆に、がんが増えるという研究結果も報告されています。
例えば、2021年に報告された韓国での研究によると、喘息がある人では、がん全体のリスクが75%増えていたということです。
また、以前の動画で紹介したように、アトピー性皮膚炎がある人では、特定のがん、おもにリンパ腫(とくに、非ホジキンリンパ腫)、皮膚のケラチノサイトがん、そして、腎臓がんなどのリスクが高くなるという結果でした。
したがって、アレルギーとがんとの関係については単純ではなく、アレルギー性疾患によっても違いますし、また、がんの種類によっても違うという、複雑な関係があるようです。
というわけで、今回は、膵がんのリスクが減る持病は、喘息および花粉症(アレルギー性鼻炎)という結果でした。
非常に興味深い研究結果ですが、アレルギーとがんとの関係については、今後さらなる研究が必要です。
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