がんゲノム医療とは、がんの遺伝子異常のパターンを調べて、その異常に応じて個々の患者さんにあった治療薬を選択するというものです。新しいがん治療の流れとして期待が大きい反面、問題点も指摘されています。
はじめに
2015年、当時のアメリカ大統領のオバマさんが、「プレシジョン・メディシン」の研究を推し進めることを発表しました。
この「プレシジョン・メディシン」とは、日本語では精密医療と訳されることが多いのですが、患者さんひとりひとりに見合った最適な医療のことです。
ここから、がんゲノム医療が急速に普及してきました。
がんゲノム医療とは、「オーダーメード医療」「テーラーメード医療」「個別化医療」ともいわれていますが、がんの遺伝子異常のパターンを調べて、その異常に応じて個々の患者さんにあった治療薬を選択するというものです。
今までは、臓器別で治療薬を選んでいたのですが(たとえば、大腸がんならこの薬)、このがんゲノム医療では、遺伝子異常のタイプ別に治療薬を選択します。
具体的には、色々な臓器のがん患者さんから採取したがん組織あるいは血液などを用いて、がんの遺伝子異常を検査します。
そして、それぞれの遺伝子異常に対応した薬(効果が期待できる薬)で治療するという治療戦略です。
たとえば、この遺伝子異常がある患者さんには、Aという薬を使い、別の遺伝子異常がある患者さんには、Bという薬を使うという具合です。
もちろん、すべての患者さんに治療薬が見つかるわけではなく、実際には、多くの患者さんでは、使える薬がない、ということになります。
遺伝子異常を調べる方法には、ある目的の遺伝子異常だけを調べる方法と、たくさんの遺伝子を同時に検査するがん遺伝子パネル検査という方法があります。
がん遺伝子パネル検査の導入
2019年6月、がん遺伝子パネル検査が保険適応になりました。これによって、自費だと56万円かかるところ、3割負担で16万8千円で受けることができるようになったということです。
これによって、さらに、がんゲノム医療への期待が高まったわけです。
たしかに、すごく効く症例があることが報告されていますし、なかには、ステージ4の患者さんのがんが寛解(消失する)こともあります。
ただ期待が大きい一方で、いくつかの問題点が指摘されています。
今回は、がんゲノム医療の問題点を5つあげて、解説したいと思います。
がんゲノム医療の問題点5つ
実施できる施設が限定されている
がんゲノム医療ですが、どこでも受けることができるわけではありません。
がんゲノム医療中核拠点病院(全国で12カ所)やがんゲノム医療拠点病院(全国で33カ所)など、一部の病院でしか受けることができません。
がんゲノム医療を受けたいと思っても、自分の病院では受けることができずに、あきらめてしまうというケースもあるようです。
じっさいに治療に結びつく患者は約1割
これが一番の問題かもしれませんが、実際に治療に結びつく患者さんは、全体のわずか1割ということです。
高いお金を払って検査をうけて、長い間、結果を待ったにもかかわらず、使える薬がないという結果になってしまう患者さんが依然として多いわけです。
全員に効果がみられるわけではない
たとえ、対応する薬がみつかって、治療をしたとしても、全員に効くわけではありません。
なかには、期待をうらぎって、まったく効果がみられない患者さんもいますし、副作用で続けることが不可能になる患者さんもいます。
対応薬が未承認(自費または患者申出療養制度)
対応する薬がみつかったとしても、がんの部位(臓器)によっては、未承認(保険適応外)のことがあります。
この場合は、非常に高額になるのですが、自費で治療を受けるか、あるいは、患者申出療法制度という方法もあるのですが、手続きが煩雑で、普及していません。
対象が「標準治療が無い」または「標準治療が終わった」固形がん患者に限定
がん遺伝子パネル検査が受けられる患者さんが、今現在は、「標準治療が無い」または「標準治療が終わった」固形がんの患者さんに限定されています。
ですから、通常の標準治療が効かないためにがんが進行した状態で検査を受けることになります。なかには、検査の結果を待つ間に、治療ができないほど悪化する患者さんもいます。
多くの患者さんで、検査と治療のタイミングが遅すぎるという問題です。
現在、国立がん研究センターでは、遺伝子パネル検査をもっと早いタイミングで実施するという研究を先進医療として行っています。
この結果次第では、より早期の段階(たとえば、がんと診断された時点)から遺伝子パネル検査をうけることができるようになるかもしれません。
以上、がんゲノム医療の問題点でした。
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