「抗がん剤副作用を軽減させる薬剤、データ科学で発見」というタイトルのニュースが流れました。研究によると、オキサリプラチンによる末梢神経障害(手足のしびれ)を改善する薬として、脂質異常症の薬シンバスタチン(リポバス)の効果を確認したとのことです。副作用対策として使えるようになるといいですね。
はじめに
先日、このようなニュースが流れました。
「抗がん剤副作用を軽減させる薬剤、データ科学で発見」というタイトルで、ツイッターで紹介しました。
読んでみますと、岡山大学などの研究グループは、抗がん剤オキサリプラチンの副作用である末梢神経障害を軽減する薬剤を、ビッグデータ解析などのデータ科学の手法を用いて発見した、とのことです。
このニュース(研究報告)についてくわしく解説します。
抗がん剤の副作用「末梢神経障害」とは
抗がん剤による「末梢神経障害」には、色々な症状があります。
手足のしびれ(じんじん、ビリビリ)・不快感、筋肉痛、手や足に力が入らない(脱力)、物をうまくつかめなくなる(落としやすくなる)、冷たいものが触れない、ボタンを掛けにくくなる、転びやすくなる、といった症状です。
「ある程度はしょうがない」とか、「しびれくらいは我慢しないと・・」など、軽視されがちですが、抗がん剤治療を続けるにつれて症状が悪化することも多く、日常生活の支障となって生活の質をいちじるしく低下させる副作用です。
この末梢神経障害を軽くする薬が発見されたということで、もととなった論文を紹介します。
スタチンがオキサリプラチンによる末梢神経障害を軽減
2022年2月に、Biomedicine & Pharmacotherapy という雑誌に報告された論文です。
この研究では、まず、アメリカの2つのデータベースをつかって、オキサリプラチンと併用したときに末梢神経障害を軽くする、これまでに承認されている薬(既存の薬)を検索したとのことです。
その結果、脂質異常症(高脂血症)の治療薬であるシンバスタチン(商品名リポバス)が、オキサリプラチンによる末梢神経障害を軽減する新たな治療薬の候補としてヒットしたそうです。
次に、動物実験にて、シンバスタチンが、オキサリプラチンによる末梢神経障害を軽減することを確認したということです。
ラットをつかった実験モデルでは、オキサリプラチンの投与によって、機械的刺激に対する痛覚閾値が下がる(つまり、刺激に過敏に反応するということで、末梢神経障害が出現する)のですが、シンバスタチンを同時に投与したラットでは、痛覚閾値は下がらないままで、末梢神経障害が抑制されたということです。
さらに、最後は、実際の患者さんにおける効果を確認するために、徳島大学病院が保有する過去の電子カルテのデータを分析したそうです。
その結果、オキサリプラチンにスタチン系薬剤を併用している患者群は、末梢神経障害の発現頻度が有意に低いことが明らかとなったそうです。
じっさいに、オキサリプラチンによる抗がん剤治療を受けていたがん患者さんのうち、スタチンを飲んでいなかった人では、末梢神経障害は約88%でしたが、スタチンを飲んでいた人では、65%と、有意に低くなっていました。
まだ、今回の研究では少人数での解析ですので、現在、多施設のより多くの患者さんでの解析をすすめているとのことです。
まとめ
シンバスタチンにオキサリプラチンの副作用である末梢神経障害を軽減する効果が確認されたというニュースでした。
もし今後の研究で、スタチンに抗がん剤による末梢神経障害を予防あるいは改善する作用が確認されれば、高脂血症に対してずっと使われてきた安全な薬ですので、副作用対策に使用できる可能性があります。
さらに、以前の動画でもお伝えしたように、スタチンには、抗がん作用もあることがわかっていますので、抗がん剤治療中のがん患者さんにとって画期的な薬になることが期待されます。
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