抗がん剤の副作用のひとつに、末梢神経障害(手足のしびれ)というのがあります。この末梢神経障害に対して、あるサプリメントが有効であることが研究より明らかとなりました。
抗がん剤の副作用:末梢神経障害(しびれ)
抗がん剤の副作用のひとつに、末梢神経障害というのがあります。
この症状は、手足のしびれ(じんじん、ビリビリ)・不快感、筋肉痛、手や足に力が入らない(脱力)、物をうまくつかめなくなる(落としやすくなる)、ボタンを掛けにくくなる、転びやすくなる、冷たいものが触れない、など様々です。
この末梢神経障害が出現すると、さまざまな場面において日常生活に支障をきたし、生活の質が低下します。
多くの場合、蓄積性が認められ、抗がん剤治療をくり返すうちに悪化していきます。さらに、抗がん剤が終了しても、すぐには改善しないことも多い副作用です。
末梢神経障害をきたしやすい抗がん剤には、以下のものがあります。
- パクリタキセル(タキソール)
- ナブパクリタキセル(アブラキサン)
- ドセタキセル(タキソテール)
- ビンクリスチン(オンコビン)
- シスプラチン(ブリプラチン、ランダ)
- オキサリプラチン(エルプラット)
末梢神経障害に対しては、原因となる抗がん剤の中止や減量、内服薬(痛み止め)、マッサージ、手袋などによるケアが行われていますが、劇的な改善は望めないのが現状です。
したがって、新たな予防策や治療法が研究されています。
サプリメントで末梢神経障害が改善
海外において抗がん剤による末梢神経障害に対してサプリメントが与える影響についての研究が行われ、報告されましたので、紹介します。
J Natl Cancer Inst. 2017年12月号に報告された論文です。
タイトルは、サプリメントの使用と、抗がん剤による末梢神経障害:DELCaP試験
です。
この臨床試験は、乳がん(ステージ I-III)に対し、ドキソルビシン、シクロフォスファミド、およびパクリタキセルによる抗がん剤併用療法のスケジュールを比較する試験(第三相試験)です。
がんの診断前、診断時、そして治療中のライフスタイルおよびサプリメントの摂取状況についてアンケート調査を行いました。
マルチビタミンおよび他のサプリメントについてのアンケート調査を終了した1225人の乳がん患者について、末梢神経障害とサプリメント摂取との関係を調べました。
結果ですが、
■ 診断前のマルチビタミンの摂取は、末梢神経障害の症状軽減(40%のリスク減少)と相関していました。
■ 治療中のマルチビタミンの摂取は、相関の程度は低いものの、末梢神経障害の症状軽減(27%のリスク減少)と相関していました。
■ 他のサプリメント(ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE,ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、カルシウム、鉄、オメガ3脂肪酸、グルコサミン)の摂取は、診断前および治療中にかかわらず、末梢神経障害と関係を認めませんでした。
以上の結果より、マルチビタミンの摂取は、抗がん剤による末梢神経障害の軽減をもたらす可能性があると結論づけています。
とくに、マルチビタミンの摂取を、診断前からはじめ、治療中も続けている患者で最も症状が少なかったとのことです。
一方で、他のサプリメントは、末梢神経障害とは関係なかったとのことです。
なぜ、マルチビタミンだけが有効で、他の、例えば、ビタミンCなど各種ビタミンは有効でなかったかについての理由はわかっていません。
ちなみに、日本がんサポーティブケア学会が出しています「がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き2017年版」では、末梢神経障害の症状緩和にビタミンB12製剤を投与する有効性はあきらかではない(非常に低いエビデンス)ということです。
いずれにしても、マルチビタミンの有効性については、今後、ランダム化比較試験において、前向きに検討すべきであるとしています。
というわけで、抗がん剤の副作用で、手足のしびれがある患者さんは、マルチビタミンの摂取を試してみていいと思います。
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