抗がん剤はなぜ効かなくなるのか?今回は、抗がん剤が効かなくなる(薬剤耐性)メカニズムについて解説します。
はじめに
抗がん剤の最大の問題は、効かなくなることがあるということです。
もちろん、最初から全く効かないということがありますが、多くの場合、最初は効果がみられるのですが、ある時点で、効かなくなります。
これを薬剤耐性といいます。
薬剤耐性の原因についての研究がすすんでいますが、まだ、克服するにはいたっていません。
今回は、抗がん剤が効かなくなるおもな理由について解説します。
1.がん細胞のポンプによる薬剤排出
2.アポトーシス(細胞死)の抑制:遺伝子変異
3.腫瘍の不均一性/がん幹細胞
4.上皮間葉転換(EMT)
5.間質による薬剤ブロック
それぞれについて、解説します。
抗がん剤が効かなくなる理由(原因)5つ
1.がん細胞のポンプによる薬剤排出
がん細胞は、多剤耐性トランスポーターあるいは、ABCトランスポーターと呼ばれるポンプをたくさんもっていて、抗がん剤を細胞の外に排出してしまうということがわかっています。
ですので、結局、抗がん剤ががん細胞に取り込まれても、外に出してしまうので、がん細胞のなかでの濃度が低くなって、効果がなくなるというわけです。
2.細胞死の抑制
正常の細胞では、DNAに傷がついて、修復ができないと判断されると、アポトーシスという細胞死が起こるわけですが、がん細胞のなかには、色々な遺伝子変異などによって、このアポトーシスが起こらなくなっているものがあります。
たとえば、有名なものでは、p53(TP53)遺伝子という遺伝子(がん抑制遺伝子の一つですが)に変異があるがん細胞では、抗がん剤でDNAの損傷があっても、アポトーシスがおこらないので、がん細胞が生き残ることができるというわけです。
3.腫瘍の不均一性/がん幹細胞
がんは、まったく同じ性質のがん細胞から構成されているわけではなく、じつは、いろいろなちがった性質のがん細胞集団から、構成されています。
これを、腫瘍の不均一性とよんでいます。
たとえると、がんという国のなかに、色々な人種がすんでいるということです。
色々な集団のなかには、抗がん剤が効きやすい細胞や、効きにくい細胞もいるわけです。
そこで、抗がん剤治療をつづけていると、抗がん剤が効きにくい細胞集団が生き残って、それがどんどん増えていくというわけです。
これは、「がん幹細胞」の考え方とほぼ同様です。
がんの中には、親玉と呼ばれるがん幹細胞が存在していて、抗がん剤でも生き残って、再発や転移のもとになるといわれています。
4.上皮間葉転換(EMT)
がんのなかには、上皮間葉転換(EMT)をおこしているものがあります。
これは、細胞の性質が、上皮系から間葉系に変化することで、これに伴って、色々な遺伝子の発現が変わったり、細胞の運動が活発になるといったこともおこります。
この上皮間葉転換がおこると、がんの悪性度が高くなって、浸潤・転移をおこしやすくなったり、薬が効かなくなったりすることがわかっています。
5.間質による薬剤ブロック
がんの組織を顕微鏡で観察すると、がん細胞のまわりに、間質という部分があります。
この間質は、いろいろな正常の細胞や、ヒアルロン酸などの細胞外マトリックスと呼ばれる物質から構成されています。
とくに、膵臓がんでは、この間質がとても分厚いことが特徴として知られています。
この間質が、じつは、抗がん剤のバリアとなったり、血管をつぶしてしまって、抗がん剤が、がん細胞に届くのをブロックしていると考えられています。
最近では、この間質をとかす薬などが開発されて、抗がん剤と併用するといった研究もすすんでいます。
まとめ
抗がん剤が効かなくなるおもな理由は、
1.がん細胞のポンプによる薬剤排出
2.アポトーシス(細胞死)の抑制:遺伝子変異
3.腫瘍の不均一性/がん幹細胞
4.上皮間葉転換(EMT)
5.間質による薬剤ブロック
でした。
がんの研究では、こういった薬剤耐性のメカニズムを解明して、抗がん剤がより効くようになるための戦略を開発しています。
今後、薬剤耐性を克服して、より効果の高い抗がん剤が使えるようになると考えています。
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