第4のがん治療といわれている「免疫チェックポイント阻害薬」ですが、腸内環境(腸内細菌のバランス)によって効果が左右されるという研究結果があります。今回、プロバイオティクスによって腎細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボとヤーボイ)の効果が増強されたという臨床試験の結果を紹介します。
はじめに
最近、オプジーボやキイトルーダといった免疫チェックポイント阻害薬の有効性が、色々な種類のがんの臨床試験で証明され、適応が拡大しています。
とくに肺がんやメラノーマ、腎細胞がんや尿路上皮がんに対しては、標準治療として確立されつつあります。
従来の抗がん剤が効かなくなった患者さんや、がんが再発した患者さんにも効果がみられる場合もあって、「夢のくすり」とも呼ばれています。
しかし、この免疫チェックポイント阻害剤も、残念ながら、全員に効くわけではありません。
では、何がこのくすりが効くかどうかを決めているのでしょうか?
免疫チェックポイント阻害薬の効果を左右する腸内環境
免疫チェックポイント阻害薬の効果を左右する因子には、色々ありますが、中でも腸内環境が関係していることがわかっています。
じっさいに、免疫チェックポイント阻害薬が効いた人と、効かなかった人との腸内細菌を比較したところ、細菌の種類や多様性に差があるということがわかりました。つまり、腸内環境がいい患者さんのほうが、くすりが効きやすいということです。
腸内細菌は大きく分けて、善玉菌、悪玉菌、そして日和見菌に分類されます。腸の中ではこれらの細菌が勢力争いをしており、そのバランスのことを腸内環境といいます。
この腸内環境は食べ物の消化・吸収だけではなく、免疫機能に深く関係していることがわかっています。つまり、腸内環境が乱れると、免疫の機能が低下して、細菌やウイルスに感染しやすくなったり、がん細胞をやっつけることができなくなるというわけです。
その点で最近、注目を集めているものが、プロバイオティクスです。
プロバイオティクスとは
プロバイオティクスとは、乳酸菌やビフィズス菌など、腸内フローラのバランスを改善し、人体に有益な作用をもたらす微生物のことです。
プロバイオティクスを摂取することによって、善玉菌中心の理想的な環境にすることで、免疫機能が高まり、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まると予想されます。
そこで、今回、この仮説を証明するために、臨床試験が行われました。
Nature Medicineという医学雑誌に2022年3月1日に報告された論文で、腎細胞がん患者さんを対象とした第一相臨床試験です。
Nature Medicine 日本語訳
転移を認める腎細胞がん患者29人に対して、免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボとヤーボイの併用)に、「CBM588」というプロバイオティクスを併用する群としない群にランダムに分けて、比較しました。
このCBM588は、酪酸を産生する菌クロストリジウム・ブチリカムを含む、生きた生物学的製剤で、いわゆる腸内環境を整えてくれる善玉菌ですね。
第一相試験ですので、安全性を評価するのがおもな目的ですが、有効性に関するデータも紹介されています。
その結果、CBM588を毎日摂取した患者では免疫チェックポイント阻害剤に対する反応が改善し、効果が長く続き、また対照群と比べて毒性(副作用)の面で差がなかったということです。
こちらが実際の無増悪率(がんが進行しなかった患者の割合)と生存率(生存している患者の割合)ですが、ともに、プロバイオティクスCBM588を併用したグループのほうが併用しなかったコントロール群よりも高く、効果も長く持続していたという結果でした。
また、統計学的に有意差はありませんでしたが、奏効率(がんが小さくなった率)も、CBM588を併用したグループでは58%で、併用しなかったコントロール群の20%よりも高いという結果でした。
まだ第一相試験ではありますが、この結果から、プロバイオティクスCBM588が、現在免疫療法を受けているがん患者の予後を改善する可能性があると結論づけています。
まとめ
今後、免疫チェックポイント阻害薬の治療に、こういった腸内環境を整えるためのプロバイオティクスを併用する方法が増えてきて、さらに治療成績が高まることが期待されます。
というわけで、今回は、プロバイオティクスでがん免疫療法の効果が増強するというお話でした。
#免疫治療 #オプジーボ #ヤーボイ #腸内細菌 #プロバイオティクス #腎臓がん #サプリメント #善玉菌 #腸活
最新記事 by 佐藤 典宏 (全て見る)
- 余命(予後)と関係する「がん再発」4つのパターン - 2023年1月23日
- 【がん薬物療法】分子標的薬 アダグラシブ:転移を認めるステージ4「大腸がん(KRAS G12C)」に奏効率46% - 2023年1月21日
- 便秘がちな人に増える意外な「がん」とは?慢性の便秘でリスクが増えるのは大腸がんではなく・・・ - 2023年1月19日