がんのひとつの原因として、腸内環境(腸内細菌)が注目されています。下痢や便秘が長引く人では腸内環境が乱れていることから、がんのリスクが高まる可能性があります。研究によると、長期に便秘をしている人では、ある意外な「がん」が増えることがわかりました。
はじめに
今回は、「排便習慣とがんとの関係」ということで、便秘がちな人に増えるがんのお話です。
がんのひとつの原因として、最近、腸内環境(腸内細菌)が注目されています。
排便習慣は、腸内細菌と深い関係がありますので、がんのリスクに影響を与える可能性があります。
例えば、腸内環境が乱れている人では、下痢や便秘をすることが多くなりますが、そういった症状が長引く人では、がんになりやすいことが予想されます。
では、便秘や下痢をしている人では、どんながんがふえるのでしょうか?
まず、予想されるのは、慢性的に便秘がある人では、大腸がんになりやすいのではないか?ということです。
はたして、そうなのでしょうか?
慢性の便秘でリスクが増えるがんとは?
2022年の8月に、Clin Gastroenterol Hepatol という雑誌に報告された論文では、スウェーデンにおける4万人以上の大腸がん患者さんを対象とした大規模な症例対照研究の結果が報告されています。
この研究では、慢性の便秘がある人(6ヶ月以上にわたって、便秘の薬を処方されていた人)における、その後の大腸がんの発症リスクは、便秘のない人に比べて、高くなかった(つまり、大腸がんは増えない)という結果です。
では、他のがんについてはどうでしょうか?
2022年の11月に、Ann Epidemiology という雑誌に報告された論文を紹介します。
アメリカ国民における全国健康栄養調査のデータベースを使った研究で、便の性状(スケールによるかたさ)や頻度についてのアンケート調査から、慢性の便秘や下痢の定義を行いました。
そして、がんの発症率(がん全体と種類別)との関係を調べました。
その結果、まずは、慢性の下痢をしている人では、すべてのがんのリスクが1.5倍になっていましたが、なかでも「大腸がん」のリスクが非常に高くなっており、下痢をしていない人に比べて、およそ9倍にもなっていました。
一方で、慢性の便秘をしている人については、唯一、相関があったがんは「乳がん」で、便秘がない人に比べてリスクが2.4倍にもなっていました。
まとめ
というわけで、今回の研究からは、慢性の便秘の人では、意外な結果ですが、大腸がんではなく、乳がんを発症するリスクが高くなるという結果でした。
では、どうして、便秘があると、乳がんになりやすいのか、ということですが、はっきりとしたメカニズムはわかっていません。
ただ、便秘など、排便習慣の異常がある人では、腸内環境の乱れにともなって、全身に慢性炎症がおこることがわかっています。
このため、腸と関係ないような、臓器(今回は乳腺)のがんのリスクが高まるという可能性が指摘されています。
いずれにしても、長期に下痢や便秘が続いている人では、一度、がんを含めた検査をすることをおすすめします。
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