がんの手術では、臓器を切除する必要がありますが、患者さんのなかには、「この臓器は切っても大丈夫か?」という心配があると思います。今回は、5つの臓器(肝臓、胆のう、胃、大腸、すい臓)について、切除したあとの後遺症などを含めて、切っても大丈夫か、について解説します。
はじめに
がんの手術では、臓器を切除する必要があります。
また、がんの部位によっては、臓器をまるごと全部、摘出する場合があります。
手術を受ける患者さんのなかには、「この臓器は切っても大丈夫か?」という心配があると思います。
体のなかで要らない臓器というのはないわけですので、臓器を切除することでなんらかの障害や後遺症がでることがあります。
ですので、基本は、できるだけ臓器を温存するように手術を計画します。
ただ、臓器のなかでも、切除しても大丈夫なもの、つまり、あまり大きな後遺症はでないものと、切除すると、かなり大きな問題をおこして、生活に支障をきたすものがあります。
今回は、5つの臓器について、切っても大丈夫か?ということについて解説します。
臓器別、切除できる範囲と後遺症
肝臓
肝臓は、部分的に切除しても、ほとんど問題ありません。ただ、肝臓は、切除できる量に限界があります。切除しすぎると、肝臓が機能しなくなって、命にかかわる状態となります。
一般的に、肝機能が正常であれば、肝臓のおよそ3分の2まで切除することができます。ですので、肝臓の右半分、左半分、あるいはそれ以上を切除する拡大切除も可能です。
また、肝臓は切除した後に、残った肝臓が再生して大きくなることがわかっています。
ですので、手術の後に一時的に肝機能は低下しますが、徐々に回復してきます。
ただし、切除した肝臓が許容量を超えていた場合や、残った肝臓がしっかり機能しない場合には、肝不全となり、死亡に至る場合があります。
ですので、肝臓の場合は、切除する範囲が非常に重要ということです。
胆のう
胆のうは、肝臓でつくられて、胆管を流れる胆汁という消化液を一時的に貯めて、食事のときに胆汁を一気に流すというダムのような役割を果たしています。
胆のうを切除しても、胆汁は流れますので、あまり大きな問題はありません。極端な話、胆のうがなくても、普通に生きていくことができます。
ただし、がんの手術では、胆のうだけでなく、胆管も切除することがありますが、胆管と腸をつなぐ手術を受けた場合には、手術後に胆管炎という後遺症(高い熱がでることが多い)がおこることがあります。
胃
胃は、食べ物をためて、消化するうえで重要な役割をはたしていることはご存じだと思います。がんの部位によって、胃が残せるかどうかを判断します。
胃の手術では、通常は胃の出口のところをふくめて部分的に切除する場合(幽門側胃切除術)と、胃を全部とってしまう方法(胃全摘術)があります。
胃全摘術の場合、やはり、後遺症が多くなって、生活の質がかなり低下することがあります。ですので、可能であれば、胃は少しでも残した方がいいということです。
胃を切除した後にみられる後遺症には、食事量の減少・体重減少、胸焼け、むかつき、嘔吐など、貧血、ダンピング症候群(食後にめまい、冷や汗、動悸、脱力感)などがあります。
大腸
大腸がんの場合、がんの部位によって、右側の大腸や左側の大腸を部分的に切除することが多いのですが、大腸の場合はある程度切除しても大丈夫といえます。
つまり、残った大腸が便の水分を吸収する役目を果たしてくれるので、そんなに大きな問題にはなりません。
ただ、術後の後遺症としては、やはり排便障害や腹部の不快感(下痢や便秘、お腹が張る感じなど)がでることがあります。
とくに、広い範囲に大腸を切除した場合や、便を貯める機能がある直腸を切除した場合には、術後に下痢が続くことが多く、生活の質がいちじるしく低下することがあります。
すい臓(膵臓)
すい臓の手術には、おもに頭側のすい臓を切除する方法(膵頭十二指腸切除術)、しっぽ側のすい臓を切除する方法(膵体尾部切除)、それから、すい臓を全部とってしまう手術(膵全摘術)があります。
では、ぜんぶ切除しても大丈夫か?ということですが、生きていくことはできますが、いろいろな障害がでてきます。
すい臓には、2つの大きな機能があります。ひとつは、インスリンなどのホルモンを分泌して、血糖値を調節する機能です。
もうひとつは、アミラーゼなどの消化液をつくって、腸のなかに分泌して、消化吸収を促す機能です。
すい臓を切除すると、どちらの機能も障害されますので、手術のときには、可能であれば正常のすい臓はできるだけ温存する方針とします。
とくに、悪性度の低い腫瘍の場合には、すい臓をできるだけ残す手術が計画されます。
すい臓を切除した後の後遺症ですが、先ほどお話したすい臓の機能が低下しますので、それに伴って、糖尿病になることがあります(20~50%、全摘では100%)。
また、消化吸収の障害・下痢・体重減少も問題となります。
どちらも定期的な検査や薬などによる対策が必要になってきます。
まとめ
この臓器、切っても大丈夫?というお話でした。
臓器によって、どのくらい切除が可能か、また、切除した場合にどんな後遺症が残るのか、といったことを解説しました。
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