「特定のサプリメントを飲むと、がんが防げる」という、がんの予防効果があるサプリメントはあるのでしょうか?最新のデータをアップデートした「がんを予防するサプリメント」についてのエビデンスが報告されましたので、紹介します。
はじめに
「特定のサプリメントを飲むと、がんが防げる」という、がんの予防効果があるサプリメントはあるのでしょうか?
わたし自身、たくさんのサプリメントを飲んで、人体実験(?)をしているので、非常に興味があるテーマではあるのですが、現時点での答えは、そういった「がんの予防効果が確認されたサプリメントはない」というのが、一般的な見解です。
ただ、個々の研究を調べてみると、いくつかの研究では、特定のサプリメントの摂取が、がんの発症リスクや死亡リスクの低下と関連していた、という報告もあります。
例えば、2020年にJAMA Network Openという雑誌に報告されたランダム化比較試験の二次解析では、ビタミンDのサプリメントによって、進行がん(転移性または致死的がん)の発症リスクが17%低下していたということです。
では、しっかりとしたエビデンスのある、「がんの発症リスクを低下させるサプリメント」はあるのでしょうか?
今回、最新のデータをアップデートした「がんを予防するサプリメント」についてのエビデンスが報告されましたので、紹介します。
がんを予防するサプリメントはあるのか?
2022年の6月にJAMAという雑誌に報告された論文です。
これは、アメリカ予防医学専門委員会 (US Preventive Services Task Force)に向けて、「心血管病およびがんの予防のためのビタミンとミネラルのサプリメント」について最新のエビデンスを調査した結果を報告する、といった主旨の論文です。
この研究では、過去に行われた、明らかな栄養障害を認めない健康な成人における、さまざまな種類のビタミンとミネラルのサプリメントとがんの発症リスクとの関係を調べたランダム化比較試験を集めて、データをまとめて、より大規模な集団について、がんのリスクを比較しました。
その結果、マルチビタミンの摂取グループは、プラセボのグループに比べて、すべてのがんの発症リスクが7%低下しており、肺がんのリスクは25%も低下していました。
ただし、このマルチビタミンのがん予防効果についてのエビデンスは、小数のランダム化比較試験の限局的な結果であることから、効果としてはわずかという評価です。
一方で、がんのリスクが逆に高くなることが確認されたサプリメントもあったとのことで、ベータカロテン(β-カロテン)の摂取によって、肺がんの発症リスクが20%増加していたということです。とくに、喫煙者などリスクの高い集団において、肺がんの発症が増えていたということです。
その他のサプリメントに関しては、たとえば、ビタミンDやビタミンEのサプリメントは、がんのリスクの低下や上昇との関連はありませんでした。
最後に、これも、限られたエビデンスですが、いくつかのサプリメントは、重大な有害事象(副作用)を引き起こすという報告があります。
たとえば、ビタミンAのサプリメントで股関節骨折、ビタミンEのサプリメントで出血性の脳卒中、ビタミンCおよびカルシウムのサプリメントで腎結石の報告があります。
まとめ
以上の結果をまとめますと、健康な人を対象としたランダム化比較試験をまとめた解析では、ビタミンとミネラルのサプリメントのうち、マルチビタミンのサプリメントにがんの発症リスクを低下させるというわずかな効果があるものの、他のサプリメントでがんのリスクを低下させるものは認めませんでした。
一方で、β-カロテンの摂取は、肺がんのリスク増加と関連していたとのことで、また、一部のサプリメントでは、股関節骨折、脳卒中、腎結石などの害をおよぼす可能性もあるということです。
というわけで、しっかりとしたエビデンスに基づいて「健康な人におけるがんの予防効果」が確立されたサプリメントは、現時点では、「ない」という結論です。
逆に、β-カロテンのように、がんのリスクが高まるサプリメントもあることから、注意が必要であると考えられます。
一般的に、こういったがん予防に関するサプリメントや食べものについてのランダム化比較試験は、(抗がん剤などのランダム化比較試験に比べて)より多くの参加者が必要なことや、観察期間を長く設定する必要があること、さらに、単純にお金がかかる(利益につながらないので、製薬会社などからの出資もない)ことなどの理由で、なかなか実施されないわけですが、今後、新しいデータがでたら、また皆さんにお伝えしたいと思います。
以上、がんを予防するサプリメントについての最新の情報でした。
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