がんの痛み(がん性疼痛)は、生活の質の低下につながる厄介な症状です。今回は、このがんの痛みを軽減し、痛み止めの使用量が減るサプリメントの研究結果を紹介します。
はじめに
ビタミンDはからだにとって非常に重要な栄養素であり、カルシウムの吸収と骨の正常な成長を促す以外にも細胞の成長、免疫機能の調節、炎症の抑制効果など様々な役目を果たしています。
さらに、ビタミンDとがんとの関係についても深い関連性が報告されています。
ビタミンDのがん予防効果を調査した海外でのランダム化比較試験では、ビタミンDのサプリメント摂取グループでは、プラセボ群に比べて、進行がんの発症リスクが有意に低下していました。
血液中のビタミンDの濃度が低下している乳がん患者さんは、生存期間が有意に短いという研究データがあります。
また、日本における臨床試験では、ビタミンDのサプリメントによって、血液中のビタミンDの濃度が低下していた肺がん患者の術後の生存率が改善したと報告されています。
このように、ビタミンDには、がんを予防したり、がん患者さんの予後を改善する可能性が示されています。
さらに、がんの痛みに、ビタミンDの不足が関係しているという研究報告があります。
一部の報告では、血液中のビタミンDの濃度が低いがん患者さんでは、痛みを強く感じるということです。
つまり、ビタミンDの不足が、がんの痛みの原因になっている可能性があるのです。
今回は、がんの痛みを軽減する可能性があるサプリメントということで、ビタミンDについてお話します。
ビタミンDのサプリメントでがんの痛みが軽減
2017年に、BMJ Support Palliat Care という雑誌に報告された、ランダム化比較試験の研究論文です。
この臨床試験では、緩和治療を受けているがん患者のうち、血清ビタミンD濃度が低下している人を対象として、1日4,000 IU(100 µg)のビタミンDのサプリメントを摂取するグループと、プラセボのグループにランダムに分けました。
痛みの程度は、使用したオピオイド鎮痛剤の量で評価しました。
その結果、
- 1か月後、ビタミンDの投与群では、コントロール群と比べて鎮痛剤の使用量が有意に減少していました。
- 3ヶ月後には、コントロール群では鎮痛剤の使用量が増えていましたが、一方で、ビタミンDの投与群では、鎮痛剤の使用量はさらに減少していました。
- また、この臨床試験では、感染症に対する抗生剤の使用についても調査していますが、ビタミンDの投与群では、コントロール群に比べて抗生剤の使用も26%低下していました。つまり、ビタミンDで感染症が減ったということですが、これはおそらく免疫機能が改善したからだと考えられています。
- ビタミンDの摂取に伴う副作用はみられませんでした。
以上、ビタミンDを補うことで、がんの痛みが軽くなり、鎮痛剤の使用量が減ったという報告でした。
まとめ
がんによる痛み(がん性疼痛)は、がんに伴う症状のなかでも最も生活の質を低下させる症状の一つです。
とくに緩和医療を受けるがん患者さんの場合、麻薬などの比較的強い鎮痛薬が必要となることが多いのですが、副作用が問題となります。
ビタミンDのサプリメントで痛みが軽減し、鎮痛薬の使用量を減らせることができれば、副作用も減らすことができると考えられます。
がんの痛み、あるいは、他の病気で慢性の痛みに悩んでおられる患者さんは、一度、主治医と相談のうえ、ビタミンDを試してみてもいいかもしれません。
#がんの痛み #鎮痛薬 #オピオイド #ビタミンD #サプリメント
最新記事 by 佐藤 典宏 (全て見る)
- 余命(予後)と関係する「がん再発」4つのパターン - 2023年1月23日
- 【がん薬物療法】分子標的薬 アダグラシブ:転移を認めるステージ4「大腸がん(KRAS G12C)」に奏効率46% - 2023年1月21日
- 便秘がちな人に増える意外な「がん」とは?慢性の便秘でリスクが増えるのは大腸がんではなく・・・ - 2023年1月19日